びわ湖ホール「さまよえるオランダ人」 〜 この舞台は見もの
2016/3/5

沼尻さんが指揮する「さまよえるオランダ人」と言えば2005年に名古屋で聴いた酷い演奏が記憶に残っている。その印象の悪さがあるので今回のびわ湖ホールはパスにするつもりだった。しかし、直前に安くチケットを譲ってくださる方があったので大津に足が向いた。いずみホールの「シモン・ボッカネグラ」のパオロ役で感心した青山貴さんが歌うオランダ人に期待するものがあったし。

オランダ人:青山貴
 ダーラント:妻屋秀和
 ゼンタ:橋爪ゆか
 エリック:福井敬
 マリー:小山由美
 舵手:清水徹太郎
 指揮:沼尻竜典
 演出:ミヒャエル・ハンペ
 装置・衣裳:ヘニング・フォン・ギールケ
 照明:斎藤茂男
 音響:小野隆浩
 合唱:二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部
 管弦楽:京都市交響楽団

行ってよかった。この演出、美術は見ものだ。舞台背景のCGが実によくできていて、嵐の海で波しぶきが舞台上の船にぶつかるところなど、大変にリアル、オランダ船が猛烈なスピードで現れてダーラントの船に横付けされるあたりも上手く造っている。こんな映画的手法をどんどん活かせばオペラの舞台も変わって行くだろう。

今回は休憩なしのぶっ続けの上演だった。過去にケルン歌劇場の来日公演で通し上演を経験したのが初めてだった。ワーグナーにしては短めの作品とはいえ3時間近い長丁場、集中力が切れていまう懸念はあったが、各幕の舞台の遷移も見事で、ちっとも退屈しなかった。間違いなく、これまで観たなかでいちばん面白いオランダ人の舞台だ。

実は、序曲のオーケストラがずいぶんもっさりした感じで、名古屋の再来かと先が思いやられたが、妻屋さん、青山さんが登場し、それも気にならなくなった。ぬるい感じだったピットを舞台の上の人たちが引っぱった公演だと思う。

妻屋さんはいつもの安定感のある歌いぶりで何の心配もない。いやあ、青山さんのオランダ人、これがとてもいい。声のパワーだけでなく、しっかりしたディクションと、シチュエーションに応じた歌い分け、ちょっと太めのスタイルが役柄にはマッチしないけどこれは仕方がないか。

ゼンタの橋爪さんも出色だ。あの長いバラードの表情づけがなんとも素晴らしいし、オランダ人との絡みも聴かせる。そして、小山さんがほんの脇役というのも贅沢だ。

キャストについては、「福井さん以外、みんな良かった」と、帰りがけに顔を見かけた在阪オーケストラの関係者に言ったら、「ワッハッハ」と いう反応、この人もそう感じたのだろうか。相変わらず出演機会は多いが、福井さんはここ数年ずっとこんな状態だ。強靱な声は益々だが、それをブツ切りで投げつけるような歌いぶりは凸凹道を疾走するクルマのよう。プレイバックを聴いたらどれだけ自分が浮いた状態なのか判ろうというものなのに。びわ湖ホール開場以来の功労者の一人だけど、今の状態は残念な限りだ。

今回のコーラスは、国内団体総出演の様相。何しろ、両船の乗組員だけでも相当な人数にのぼるし、そこに女声合唱が加わる。それをまとめるのは三澤さん、これだけ多いと、新国立劇場で聴くときほどのキレはなかったかも。ただ、二日目以降はずっと良くなるかと思う。

舞台はビジュアル的に大成功なのだが、ちょっと違和感があったのはオランダ船の乗組員たちがゾンビのようなメイクで登場するのはいいにしても、蛸のように長い手を振り回すのは珍妙な感じだった。それと、第1幕の初めからずっと舞台中央で眠りこけている船員が一人、彼は幕切れになって目覚めるので、オペラが夢の中の出来事ということにしているようだ。しかし何度か寝返りは打つにしても2時間以上もほぼ同じ姿勢でというのはキツいことだ。客席で居眠りするのとはわけが違う。と、今回は面白くて居眠りも出なかった私。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system