伊丹市民オペラの「トスカ」 〜 ほんと予想通り
2016/3/27
先月のはじめ、プレトークに出かけた「トスカ」、今日が本番の公演となる。カミサンに尋ねたら「行こうかな」ということで、後からチケットを買い足して伊丹まで。高速も空いていて奈良から1時間もかからない。
トスカ:山口安紀子
カヴァラドッシ:藤田卓也
スカルピア:松澤政也
アンジェロッティ:片桐直樹
スポレッタ:小林峻
シャルローネ:田中崇由希
堂守・看守:楠木稔
羊飼い:中原加奈
合唱:伊丹市民オペラ合唱団
児童合唱:三田少年少女合唱団
管弦楽:伊丹シティフィルハーモニー管弦楽団
指揮:加藤完二
合唱指揮:岩城拓也
演出:井原広樹
やはりプレトークで歌うのと本番とは違う。山口安紀子さん、藤田卓也さんともによく仕上がっていた。山口さんは舞台映えのする容姿で、それだけでも得なのだが、所作にもう少しきめ細かさがほしいなあ。このヒロインの場合は演技で見せるところも多いから、ちょっとした表情や動きが他のオペラより大事になる。それで行くと、ぎこちない動きも散見し、まだ彼女は仕草で語るという域には達していない。これからかな。歌のほうはディクションもいいし、表現に硬さはみられるものの今後の伸びしろは感じる。
一方の藤田さん、もうすっかり関西ではスターと言ってもいいぐらいで、アリアの後は大歓声、この人のいいところは、アリアだけでなく地の部分もしっかりしていることだ。意外にそういう人は少なく、レチタティーヴォがぞんざいになる歌い手は多い。ただ、最後のアリアの終わりは伸ばしすぎだ。あれはちょっと余計。
スカルピアを歌った松澤政也さんは、当初クレジットされていた桝貴志さんの代役、体調不良ということでの交替らしい。「トスカ」というオペラは三人揃えばOKという言われかたもするが、二人でもなんとかなると言えばそうかも。それが今回の公演ということか。急遽出演という事情はあるにせよ、力の差が著しい。ご本人には気の毒だが、スカルピアがらみの場面ではいささか感興がそがれたのは事実だ。片桐直樹さんがアンジェロッティから回ればよかったのにとも思うが、彼はバスバリトンだからちょっと厳しいのだろうか。
市民オペラだから格別の期待をもって臨むのは酷なところもあるが、今回は二人の主役に伸び盛りの歌手を得て成功と言えるし、演出・舞台も気合いが入っていた。なかなか綺麗に作った聖堂の奥が現れるのが第1幕の幕切れの一瞬だけというのはもったいないような気がする。一方で首をかしげたのは第3幕のサンタンジェロ城の屋上にボロボロの格好で何人もの人物が眠りこけていること、死人でも囚人でもなさそうだし、でも銃殺の音にも反応しないから、どういうことなんだろう。このシーンにはあると思った天使像がなかったのは、予算の加減か、演出の都合かは不明。
コーラス、オーケストラはずいぶん練習を積んでいたと思う。がっかりということはなかった。アマチュアだが歴史のあるオーケストラのようで、弦の厚みに不足するという問題はあるにしても、破綻なくピットを務めたのは立派だ。もっとも、オペラハウスのオーケストラとしての緩急やメリハリまで求めるのは高望みかも。
オペラを観たあと、伊丹市民オペラのホームページを見て驚いた。そこには、今回の公演がふるさと納税の特典になっているとある。
ふるさと寄附の金額が3万円以上の場合、記念品の中から伊丹市民オペラ「トスカ」A席チケット2枚をお選びいただけます。
今回、私とカミサンの二人、A席5000円とB席4000円だったから都合9000円、ふるさと納税すれば寄付金控除があるので実質負担2000円で済んだわけだ。なんだ、先に知っていたら迷わず寄付したのに。悔しいが、もう後の祭り。
しかし、よく考えてみると、このスキーム、私が前にびわ湖ホールに提言したそのままじゃないか( 「びわ湖ホール」を救う ~ 三方一両得のソリューション !? 2008/6/3) 。
あのとき、館長から謝意はいただいたが滋賀県では結局ボツにされたアイディアだ。それを実現した伊丹市はエライ。言い出しっぺが恩恵にあずかれなかったというのも皮肉だけど、市民オペラで追随するところが増えてくるといいなあ。