砂川涼子ソプラノ・リサイタル 〜 あれから15年
2016/6/30

今年度のびわ湖ホールのラインアップは興味深い。プロデュースオペラでワーグナーの四部作がスタートするのにはびっくりしたし、ここの声楽アンサンブルのメンバーで「ドン・キショット」と「連隊の娘」が上演されるとは 。大津通いが増えそうだ。秋にはシラグーザが加わる「ドン・ハスクアーレ」もある。そのドニゼッティ作品でノリーナを歌う砂川涼子さんのリサイタルがあるのを知り、早速チケットを手配した。平日の昼間だけど、ちょうど休みの日だ。

モーツァルト:「すみれ」
 モーツァルト:「クローエに寄す」
 モーツァルト:歌劇「魔笛」より「恋を知る男たちは」(二重唱)
 モーツァルト:歌劇「魔笛」より「恋人か女房がいれば」(バリトン独唱)
 ロッシーニ:「ヴェネツィアの競艇」より
 グノー:歌劇「ファウスト」より「宝石の歌」
   * * *
 中田喜直:「六つの子供の歌」より「たあんき ぽーんき」
 平井康三郎:「ゆりかご」
 ヴェルディ:歌劇「オテロ」より 「柳の歌」「アヴェ・マリア」
 プッチーニ:歌劇「トスカ」より 「歌に生き、恋に生き」
   * * *
 プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より 「私のおとうさん」
 レハール:喜歌劇「メリー・ウィドウ」より 「唇は語らずとも」(二重唱)
  ピアノ:園田隆一郎
  ゲスト出演:晴雅彦(バリトン)

モーツァルトの歌曲でスタートし、だんだん重いものに移っていくというプログラムは定石どおり。独・伊・仏・日と四カ国語にわたる。パミーナは何度も舞台で歌っている役だが、トスカはこの先に予定されているようだが彼女にとっては初役のようだ。従来のリリコ・レッジェーロからリリコへ役柄を拡げていく意欲が窺える内容だ。後半に歌ったデズデモナも最近のレパートリーだし、彼女のトークにもあったように、「トラヴィアータ」や「死の都」、さらにはノリーナと新しい役への挑戦がびわ湖ホールで続いている。

この人を初めて聴いたのは15年前だ。新国立劇場中劇場での「イル・カンピエッロ」、あれが舞台デビューだったはず。その後に聴いたパミーナ、ミミ、リュー、アントニアあたりが声も姿も彼女に相応しい役柄だけど、そこに留まらず可能性を追求するという姿勢は好ましい。びわ湖ホールに背中を押されてということのよう。無理はしていないようで、声の傷みなど全く感じなかったこの日の歌なので心配ないが、慎重に歩んでいってほしいものだ。ミレッラ・フレーニのように。

声も好調だし、よく練り上げられた歌唱で、どれをとっても満足できる出来映えと言って差し支えない。言葉の丁寧さ、明晰なディクションはこの人の美点で、好ましく思う点だけど、今はそれに表現の振幅が加味されている。砂川涼子の変貌ということか。近年のチャレンジと軌を一にするものだろう。その延長にあるトスカ、ただこの短いアリアだけ聴いても判断しかねるところがあるので何とも言えない。舞台全体を通してどうなのかなだし。アンコールでノリーナのアリアのお披露目があるのではないかと期待したが、定番のラウレッタだったので少し残念。秋までお待ちくださいということか。

ゲストで出演した晴雅彦さん、パパゲーノのナンバーをデュエットとソロで歌ったが、この人のキャラクターはモノスタノスとかオスミンが合いそうだ。トークでのベタベタの大阪弁と自虐ネタで、砂川さんとのコントラストが可笑しい。悪声の喋りと力強いバリトンの声質に大差があるのも不思議。ともあれ、東京に乗り込み新国立劇場に地歩を築いたガッツのある人だ。

私は2回目か3回目になる小ホール、ここはトッパンホールと似た感じのいい雰囲気だ。入りは八分ぐらい。終演後はサイン会があり、列もそんなに伸びていなかったので私も並ぶ。3人の出演者とそれぞれお話。

「15年前のイル・カンピエッロのときから聴いています。あれが最初でしたか」
「ええそうなんです。ありがとうございます。もうずいぶん歳をとりました」
いえいえ、変わらず若々しいですよ。にっこりと握手。

「あのトスカの前奏のパラフレーズみたいなのは、あれはいったい」
「ええ、オペラの中のメロディを繋げて弾いたんです」
ヴェルディの長い場面のあと、いきなり短いアリアじゃ雰囲気の切り替えは難しいから、さすが指揮者らしい配慮だなあ。

「プログラムの写真とえらい違いまんなあ。びっくりしますわ」
「10年使こてまして、撮りなおさなあかんのですけど、そのまんまでして」
女性歌手にはよくあることだけど、男も同じか。どうせメイク・舞台衣装で変わるし、何でもあり、気にしない。

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