佐渡オペラ「夏の夜の夢」 〜 妖精GO
2016/7/26

下京の祇園祭、キタの天神祭と来て、西宮の佐渡オペラ、もうすっかり夏の風物だ。仕事が午前中に終わるし、火曜日なら2時前には到着できそうということでオークションを物色、直前にチケットを入手した。そしてやって来た西宮北口の南口、改札の外にあるポスターを見てびっくり、なんと「完売御礼」の赤い貼り紙。まさか、こんなと言っては失礼だが、ブリテンの「夏の夜の夢」なんて辛気くさい作品を6公演もやりながら、これか。

オーベロン:藤木大地
 ティターニア:森谷真理
 パック:塩谷南
 シーシアス:森雅史
 ヒポリタ:清水華澄
 ハーミア:クレア・プレスランド
 ヘレナ:イーファ・ミスケリー
 ライサンダー:ピーター・カーク
 ディミートリアス:チャールズ・ライス
 ボトム:アラン・ユーイング
 クインス:ジョシュア・ブルーム
 フルート:アンドリュー・ディッキンソン
 スナッグ:マシュー・スティフ
 スナウト:フィリップ・シェフィールド
 スターヴリング:アレクサンダー・ロビン・ベイカー
 合唱:ひょうごプロデュースオペラ児童合唱団
 管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
 指揮:佐渡裕
 演出・美術:アントニー・マクドナルド

上演が稀な作品で、私も2008年にカレッジオペラハウスで観たのが唯一だ。あのときも最終場面以外はずいぶん退屈した覚えがある。それはこの日も同じ、いくら傑作だと喧伝しても退屈なものは退屈だ。英国では事情は違うのかも知れないが。

事前情報を入手していた訳ではないので、この公演の歌唱言語が日英混交とは幕が上がるまで知らなかった。外国人キャストが歌うところとアンサンブルで日本人キャストが絡むところは英語、コーラスを含む日本人キャストのところは日本語だ。お客に話の筋を判りやすくするため、子供たちの負担を軽くするためといった理由があるのだろうが、これは失敗だと思う。
 部分部分で言語が異なること自体は構わないし、場面ごとに上手く切り分けているとも言える。ただ決定的なのは、英語のテキストに付けられた曲に無理矢理日本語を充てる不自然さだ。語順や音体系が水と油なのだからどだい無理がある。オーベロンの歌は品詞関係なくただ音符に乗せるのっぺりさ加減で、藤木大地さんの歌は眠気を誘うし、ティターニアのコロラトゥーラは言葉的には破綻寸前で、森谷真理さんの才能の片鱗は窺えるものの訳詞の韻律が無茶苦茶で聴くに堪えない。特にソプラノの歌は日本語でも聞き取れないことが多いのだから、字幕を出すわけだし原語で歌うべきだろう。子供が歌詞を覚えられないなら女声コーラスにすればいい。
 ただでさえ退屈な第1幕がこんな状態なので、私はのっけから意気阻喪という状態になってしまった。とても残念。

ロンドンでオーディションをして選んだという歌手たちが登場する場面は生気がある。二組の恋人たちの歌も英語だとリズムやアクセントに違和感がない。6人の職人たちの演技やアンサンブルもいい。こうしてみると、何故、日本人キャストを英語にしなかったのか理解に苦しむ。大してテキストの量が多いわけでもないし、馴染みのないチェコ語というわけでもないのに。

結局、楽しめたのはやはり最終場面だけとなった。「ルチア」やレニングラード交響曲のパロディが登場するこの場面は可笑しくていい。しかし、半ば予想したこととは言え、ひょっとして「キャンディード 」のときのように最高に面白かったということが あるかもと期待して出かけたのだが、そうはならなかった。あのときは与って演出の力だったし、世界中で絶賛されたものだったから。今回の演出が悪いわけではなく、美術もセンスがあるし回り舞台を上手に使った転換もスムースだったけど、作品に大きな付加価値を与えるまでには至っていない。
 ただ、この日は演出も少し変えたらしい。と言うのもハーミア役のクレア・プレスランドさんが前回の舞台で捻挫という事故があったということ。開幕前に佐渡さんが幕の前に立ちそんな説明をした。 スタンバイの歌手を用意しておらず公演の継続自体も危ぶまれたようだ。凸凹の装置の上を動き回るのだからあり得ること、しかし、バックアップなしのシングルキャストとはリスキーだ。オペラグラスで覗くと右足首にはサポーターで動きは控えめ、カーテンコールのときは恋人役が車椅子を押してという状態だった。

あと、歌い手ではないが狂言回しの役のパックを演じた塩谷南さん、この人はダンサーでキレのいい動きを見せていたのと、口跡がとても見事なのに感心した。プロフィールをみると演劇のキャリアもあるようだ。なるほど、彼は日本人出演者でいちばん目立った存在だった。

プログラムに佐渡さんが今回の演目は冒険というようなことを書いていた。シェイクスピア没後400年ということもあって取り上げたのだろう。オペラだけでなく、多くの関連イベントも含めて盛り上げていくという手法は見事に成功し、信じられないソルドアウトを達成したのには正直敬服する。
 このメインイベントたるオペラを観た人はどう感じただろう。やっぱり良かったということであれば幸いだけど、ちっとも面白くなかったでは次に繋がらない。来年は一転、「フィガロの結婚」らしい。あまりにもありきたりとは、言うほうも勝手なものだけど。

この日が6公演のうち3回目の公演、22日が初日だったので、まさに日本でもポケモンGOがリリースされた日だった。不思議なものがリアルの世界に飛び込んで来るのだから仮想キャラクターも妖精も似たようなものか。公演が終わってスマホの電源を入れると、西宮北口駅の周りにも沢山のポケモンがいたぞ。

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