びわ湖ホール「ドン・キショット」 〜 やっぱりマスネ
2016/8/6

西宮だけじゃなく大津でも真夏にオペラ。今年のびわ湖ホールのラインアップは意欲的だ。指輪4部作がスタートするだけでなく、専属の声楽アンサンブルのメンバーで「ドン・キショット」と「連隊の娘」を上演するというのだから。これは夏バテとか言っておれない。湖岸と言えど暑い大津に足を運ぶ。でも、やっぱり暑い。普段なら大津駅から歩くところを、熱中症は嫌だとバスに乗る。

ドン・キホーテ:林隆史
 サンチョ・パンサ:内山建人
 ドゥルシネ:山際きみ佳
 ペドロ:飯嶋幸子
 ガルシアス:船越亜弥
 ロドリゲス:増田貴寛
 ジュアン:川野貴之
 召使:砂場拓也、吉川秋穂
 管弦楽:日本センチュリー交響楽団
 指揮:園田隆一郎
 演出:菅尾友
 振付:砂連尾理

しばらく前に指揮者交替の連絡が来た。予定されていたクレール・ジボー氏は公演1か月前に来日して稽古を進めていたが体調不良により断念、園田隆一郎さんに替わるという内容だった。それ自体は残念なことだけど、びわ湖ホールがこの公演に十分な準備時間をかけていることが逆に判る一面もあった。
 スター歌手がクレジットされているわけでもなく、出演びわ湖ホール声楽アンサンブルと一括りでアナウンスされる舞台なのに、プロデュースオペラ並みの力の入れよう、メンバーの新進歌手たちは恵まれているとも言える。年2回の本格的舞台公演、それだけ見れば新国立劇場のオペラ研修所を凌いでいる。

このオペラ、新国立劇場で2000年に取り上げられたのを観て以来だ。あれは五十嵐喜芳芸術監督時代にマスネ作品を連続して取り上げていた一環で、タイトルロールには大物ルッジェーロ・ライモンディを据えた公演だった。「ドン・キショット」はフランス語圏以外では上演が稀だから、今回のびわ湖ホールは関西初演になる。あのときの重量級の歌手とこれからの歌手を比較するのは酷な反面、オペラはスターを配せばそれでよしというものでもないことが、今日の800人あまりの中ホール公演で再認識した。図抜けた人がいない一方で、稽古を積んだアンサンブルの良さ、演出、振付、装置…、総合的な完成度は注目に値する。

開演前に演出の菅尾友さんと振付の砂連尾理さんがピットの前でトークを行う。今回の演出では出演者の動きがとにかく多い振付になっているとか。確かに舞台上でじっとしていることはない。しかも歌いながらだから大変。これは稽古に時間がかかるだろう。座付きの若い歌い手でないと無理かも。演出・振付もやりやすい環境なのかも知れない。

舞台装置は建築現場の足場のようなユニットを組み合わせ、幕ごとに配置を変える。第2幕の風車突進の場面では風車に見立てて回り舞台で表現するのは上手いアイディアだ。よく見ると、この足場も、あちこちに置かれたボックスもびわ湖ホールの備品のようだ。この公演に向けて作ったものではなさそう。それにしては配置などにセンスがあり、一見では低予算版には見えないところがにくい。

全5幕、前半3幕、後半2幕で途中休憩が20分、正味2時間なので各幕が短い。次から次に話が進むので退屈しなくていい。でも、ちょっとあっさりしすぎのような。これがマスネなんだ。ヴェルディやワーグナーのように魂を揺すぶられるような瞬間はない。これがフランスオペラなんだ。特にこの作品では薄さ軽さがつきまとう。これが、好きな人と嫌いな人に分かれるところかも。こういうもんだと思って楽しめばそれでいいような気もする。

この演出だと手抜きすることなんて無理ということは措いても、びわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーは好演だ。歌と演技に八面六臂というところ。それでずいぶん楽しめたのだが、歌唱に限ってみれば瞠目するような才能に巡り会えたわけではない。ドゥルシネの山際きみ佳さんあたりが注目だが、主役としてのオーラの発現はまだまだか。二塚直紀さんのようにアンサンブルメンバーからスタートしてミーメやトリスタンまで歌うような人も出てきたわけだし、彼らの今後のキャリアの発展を期待したいものだ。

ホワイエから湖面に目をやると観光船や多数のヨットが浮かび、すっかり真夏の情景、月曜日には恒例の琵琶湖花火大会が開催されるので、有料観覧席の設営も行われている。このびわ湖ホールのホワイエは特等席のはず、それなら花火大会に合わせ18:00開始19:00終了のコンサートを企画してみたらどうだろう。当日の公演予定はなさそうだが、公立のホールだとそういう発想とは無縁なのかなあ。
 今回ピットに入ったのは日本センチュリー交響楽団、大所帯ではないので、エキストラを入れてもだいぶリダクションした編成のようだったが、園田さんの棒の下、元気な音を出している。ちなみに、このオーケストラはリニューアルされる豊中市のホールの指定管理者になる。国内オーケストラでは初めてのこと、補助金打ち切りで生き残りをかけた経営努力が窺える。びわ湖ホールも滋賀県がバックにいるから安泰とも言い切れない。

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