みつなかオペラ「マノン・レスコー」 〜 オペラもチームプレー
2016/10/2

みつなかオペラに足を運ぶようになって丸6年、「マリア・ストゥアルダ」、「ファヴォリータ」、「カプレーティとモンテッキ」、「ノルマ」、「清教徒」というベルカントのレパートリーから一転、今年からプッチーニのシリーズが始まる。その第一弾が大好きな「マノン・レスコー」だし、並河寿美、藤田卓也のコンビとなればソルドアウトは必定、早々にチケットを確保した。やはり、会場のポスターには「完売御礼」。

マノン・レスコー:並河寿美
 デ・グリュー:藤田卓也
 レスコー:迎肇聡
 ジェロンテ:片桐直樹
 エドモンド:谷村悟史
 音楽教師 :森理奈
 舞踏教師 :橋本恵史
 船長:西村明浩
 酒場の亭主&軍曹:赤澤俊明
 点灯夫:柏原保典
 管弦楽:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
 合唱:みつなかオペラ合唱団
 指揮:牧村邦彦
 演出:井原広樹
 合唱指揮:岩城拓也
 装置:A.マストロマッテイ

兵庫県川西市、小さな地方自治体で毎年プロデュースオペラを上演するのは大変なことだ。装置、衣装、オーケストラ、コーラス、ソリスト…400人そこそこのホールで採算は全くとれないことは明らかだ。しかも演目が意欲的だし、歌手の顔ぶれも国内トップクラス、音楽監督牧村邦彦氏はじめ関係者の努力には頭が下がる。びわ湖ホールや兵庫県芸術文化センターとは路線が異なるが、それらと競い合って関西のオペラシーンを彩る存在であることは論を俟たない。藤田卓也を発見した、みつなかホールに行くのは本当に楽しみだ。

この「マノン・レスコー」ではまた一人の発見があった。エドモンドを歌った谷村悟史さん、「あれっ、このオペラでプリモ・ウォーモがいきなり歌うんだったけ」とアホな勘違いをするほどの声だ。ややあって登場するデ・グリューの藤田卓也さんに引けを取らない。こんなちょい役で歌わせるのがもったいない。早晩主役の座を掴む人だろう。また、牧村さん、発掘したな。

タイトルロールの並河さんが素晴らしかったのは、第1幕、第2幕だ。第4幕のドラマティックなアリアのイメージに合いそうだと思っていたら、短い出番の第1幕がとてもいい。修道院入りを目前にしたデ・グリューとの出逢いから、駆け落ちに突き進む流れの歌唱表現と声のコントロールの見事さ、あまり上演に接する機会のない作品だが、むかし聴いたフレー二の舞台を彷彿とさせる。それと、第2幕のデ・グリューとのデュエット以降の歌は藤田さんともども間然とさせない。まさに、関西でしか聴けないゴールデン・コンビの趣きだ。とにかく、第2幕のデ・グリュー登場の場面から音楽が変わる、歌が変わる。そういう台本だし、スコアなんだけど、それを歌唱で的確に具現化できる人は多くない。この場面だけでも観た値打ちがある。
 反面、第2幕前半と第4幕に置かれたマノンのアリアは予想の範囲を超えない。もちろん立派な歌だけど、並河さんの美点はアリアだけに終始しないドラマ全体を見据えた表現力にこそあると再認識する。この人はソロもさることながら絡みやアンサンブルで力量を全開する。

あまりにも衝撃的だった「ファヴォリータ」以来、川西では絶大な人気を博している藤田卓也さん、おばさま親衛隊のようなファンもたくさん来ている。私もあれから多くのロールで聴いている。今や藤原歌劇団の看板になる勢いだ。彼にしか歌えないベルカントの大役で聴きたいのは山々なのに、最近はヴェリズモ系のレパートリーに取り組むことが増えているのは気かがりだ。
 第1幕では二つのソロがあるのだが、はじめのTra voi, bell…では表現が重くなってしまっているように感じた。力を抜いて軽やかさを出して欲しいし、それが出来る人なのに少し残念。大きなホールで歌うことが増え、余計な力が入るようになってきたのかな。激情に奔る後半の幕だとそれでもいいのだけど、マノン同様、なかなか各幕の歌い分けは難しい。

レスコーの迎肇聡さんはこのならず者の役なら違和感があまりない。びわ湖ホール声楽アンサンブルの頃から声の力強さは目立っていたが、剛ばかりで柔がないところが全然変わらない。惜しい。歌い手というものは天性の要素が強いから、なかなか難しいのだろう。ジェロンテの片桐直樹さんは出番の少ない仇役だけど存在感はさすが。バイブレイヤーがしっかりしているとオペラに筋が通る。

ここ数年のドニゼッティ、ベッリーニならともかく、プッチーニの音楽を小さなオーケストラでやるのはチャレンジングだったろう。幕間にピットを覗いてみたらコントラバスは1本だけ、それでもちゃんとした響きになっていたのには感心した。明らかにオーケストラは舞台上の声に触発されて幕が進むにつれて熱が入っていく。幕切れのあと、ピットのメンバーのスタンディングオベイションなんて滅多に見られないものだ。

「マノン・レスコー」、いちばん最近に観たのは昨年の新国立劇場の舞台、あれは正直いまひとつの出来映えだった。プッチーニの音楽はよい意味で扇情的なのに、ちっとも興奮しなかった。それに比べればこの川西の舞台は格段に盛り上がる。そうなんだ、入りのところのエドモンドは大事なんだ。トップバッターが見送りで三振するのと二塁打を放つのでは後が大違い。ヘンな例えになったが、オペラもある意味チームプレー、そんな印象が残った上演だった。来年は「妖精ヴィリ」と「外套」、さて、どんなキャストになるんだろう。

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