新国立劇場「ワルキューレ」 〜 豪華キャストなのに
2016/10/12

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 10月12日、昼に「ワルキューレ」、夜に「ドン・カルロ」という重量級ダブルヘッダー、なんとも常軌を逸した企てを実行する。午前3時に起床、早朝便に乗ろうとすると大変だけど、山登りなら3時起きなど珍しくないから平気だ。「ワルキューレ」は第2幕の途中までになるが、致し方ない。こちら、時間があるから、いっそ12時開演にしてほしいところだ。

ジークムント:ステファン・グールド
 フンディング:アルベルト・ペーゼンドルファー
 ヴォータン:グリア・グリムスレイ
 ジークリンデ:ジョゼフィーネ・ウェーバー
 ブリュンヒルデ:イレーネ・テオリン
 フリッカ:エレナ・ツィトコーワ
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
 指揮:飯守泰次郎
 演出:ゲッツ・フリードリヒ

これは歌手のラインアップが素晴らしい。このメンバーだと、世界のメジャーオペラハウスに全く遜色ない。良く集めたものだ。と言うか、飯守さん、シーズンの予算をワーグナー2作(このシーズンオープニングと掉尾の「ジークフリート」)にぶち込んだなと言えなくもない。まあ、そんな捻くれた見方をしないで、素直に楽しむのが良いだろう。

第2幕の前半1時間ぐらいで退出したので、全体としての論評はできない。観た範囲でのみ言うと、期待に違わずキャストは万全、ただピットはもう少し何とかならないのかという印象だ。東京フィルはこれだけオペラのピットに入っていながら、初台ではついぞ二流から脱することがない。定期演奏会が控えているので主要メンバーはそちらに回ったのかも知れない。ウィーンのオーケストラもそうだけど、気合いが入るときが少なくて、ピットではルーチン的な演奏が多すぎる。

管楽器が頼りない。端々の音が不安定でピシッと決まらない、そのくせオーケストラの元気だけはあるので、バランスもおかしくなる。指揮ももっさり感があってドラマに即した抑揚がないというか、舞台上下のインスパイアが感じられない。飯守さんに体力的な問題があるのかも知れない。得意なはずのワーグナーで最近の演奏は生彩がないように思える。私は聴いていないが、東京のともだちがインキネン/日本フィルのワーグナーを絶賛するのを耳にすると、新国立劇場では他の指揮者がことワーグナーでは排除されている現状が残念だ。まあ、飯守さんは間もなく芸術監督を退く予定だから、それからのことか。

第1幕でのジークムントとジークリンデの愛の場面、この二人は双子の兄妹なので似ていて当然だが、ジークリンデが「小川に映した自分の姿は目の前にいる貴方の姿だ」というくだりでは吹き出しそうになった。 そう、グールドとウェーバー、見事な横幅の体型だから、確かに川面に映る姿だったら間違っても不思議じゃない。古今の例を引くまでもなく、オペラ歌手は外見も大事、でないと悲劇が一転喜劇になりかねない。

そんなバカなことを考えていても、第1幕の3人の歌唱は素晴らしいし、彼らのアンサンブルは聴き応えがある。三者のバランス、対照もいい。グールドの疲れを知らない輝かしい声、ウェーバーのピンと張ったようなリリックな声、ペーゼンドルファーの凄みのある声、3人しかいない登場人物(フンディングの手下は黙役で数名登場)の絡みは凝縮感がある。ただ、ここでもオーケストラは普通であり、舞台上との相乗効果を高めるまでの働きをしていないのが残念だ。

第2幕はヴォータン、フリッカ、ブリュンヒルデと、第1幕に出ていなかった3人が登場する。先に歌った人たちは充分なインターバルがあるのだから、ここで40分もの休憩が必要なのか疑問だ。歌手と言うよりも、オーケストラや観客のための休憩なのかな。後の予定がある自分としては、さっさと初めてほしいところ。第2幕のブリュンヒルデと双子兄妹の場面は大好きなので、そこまで観たかったのに叶わず。

ヴォータン、フリッカ、ブリュンヒルデの3人もいい。もう新国立劇場ではお馴染みの人たちだから、聴いていて安心感がある。なかでもツィトコーワは、新国立劇場へのデビューがケルビーノだったらしいから、とうとうフリッカまで歌うようになったのかと感慨深い。この人は出演作品の多さ、人気の高さ、初台のプリマみたいなものだ。ヴォータンならずとも、ここでのフリッカの怖さはひしひしと感じるのだが、彼女の場合は舞台姿が良すぎて怖さの質がちょっと違う。でも怖い。

第2幕の後半が聴けなかったのは残念だが仕方ない。テオリンとグリムスレイの聴かせどころはこれからなのは重々承知、「ワルキューレ」と「ドン・カルロ」を秤にかけて後者を採るというのは、ワグネリアンからすると狂気の沙汰だろうが、個人の嗜好や価値観をとやかく言われる筋合いもない。

開演前にレフトサイド・バルコニーの扉に近いZ席の人に声をかけ、第2幕は席を入れ替わってもらった。私は5人掛けの真ん中、途中脱出に備えたわけだ。すると、休憩時間に「途中で出ますので、替わってもらえないでしょうか」と左隣だった人に声をかけられる。「あれっ、私も途中で出るんですけど」と、話を聞けばこの人も上野に向かうらしい。ギリギリまで粘るつもりの私より30分ほど早く出るようだ。それならと、順位を繰り上げ(下げ)、同じような人がいるものだと呆れる。いや、呆れられるのは私のほうかな。いざ、東京文化会館へ。

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