大阪国際室内楽フェスタ、グランプリ・コンサート2016
2016/11/15

何年か前、大阪国際室内楽コンクール&フェスタの一般審査員(フェスタ部門)をした関係で、毎年開催される各部門優勝団体のグランプリ・コンサートの招待状をいただく。今回、奇妙なチラシに惹かれてカミサンと出かけることにした。このコンサートはスポンサーの読売テレビによる一般公募招待になっている。

その団体は、ザ・スリー・エックスという3人組、ピアノとヴァイオリン2本の変わった編成だ。二年前の優勝時の名称がダス・クライネ・ヴィーン・トリオということなので、ヨーロッパで活動しているようだ。メンバーの名前からするとポーランド系の人たちだろうか。
 ヤセック・オブスタルシック(ピアノ)
 クシシュトフ・ココゼスキ(ヴァイオリン)
 ヤセック・ストラルシック(ヴァイオリン)

演奏曲目をみると、なんだか訳の判らないタイトルがずらりと並んでいる。いったい何だ、これは。コンクールの際、一般審査員の圧倒的支持を得て優勝したとの紹介がプログラムにあったが、括弧付きで物議を醸したようなことも書いてある。ふふふ、面白そうだ。

ドラゴン・レーシング
 ガミーベアの冒険
 熊蜂の飛行
 ショパンのゴッドファーザー
 ボーン・イン・ザ・サーカス
 プレイング・ラブ
 ハッピー・ツイスト
 ジャクソンズ・スリー
 キャンパス・フェスト・ミックス
 序曲 I
 ホーリー・ブルース
 ビバ・トルコ
 ウィズアウト・ユー
 ワールド・オブ・TVシリーズ
 ポイ・ダンス
 最後の戦い
 グランデ・フィナーレ・ウルティモ

こんなに笑えるクラシックのコンサートなんて、珍無類と言っていい。むかし「タモリの今夜は最高!」というTV番組で、斉藤晴彦がクラシックの有名なメロディにナンセンスな歌詞を付け、次から次へと猛烈なスピードで歌う「任侠オペラ」というのがあり、見ていて笑い転げたことがある。あれはあの番組の最高傑作だった。今夜はそれ以来の面白さかも。

と言っても、これはおふざけというようなレベルではない。ピアノ、ヴァイオリンの腕は確かなものだし、まあよくこんな組合せを考えて、アレンジしたものだと感心する。あの番組と共通するところは、演じている本人たちが糞真面目にやるので余計に可笑し味が増すという、パロディの基本に忠実だということ。きっちり演奏し、そこにギャグやコントが縦横無尽に挿入される。ときに歌や鳴り物、もろもろの小道具まで飛び出す。ちょっと簡単には説明できない、クロスオーバー・エンターテインメントとでも言おうか。例えばこんな感じだ。

ショパンのゴッドファーザー、ショパンのピアノ曲とニノ・ロータの「ゴッドファーザー」のテーマがパラレルに進む。そこにマフィアに扮したヴァイオリン氏が現れ、もう一人のヴァイオリン氏を射殺、震え上がるピアノ氏の傍らで死んだはずのヴァイオリン氏が横たわって沈痛な音楽を奏でる。もう、言葉にすると無茶苦茶だが、見ていると可笑しくて。

序曲 I、このパターンは他にもいくつかあって、意外な曲の組合せ、接続だ。よくもまあ、こんな取り合わせを思いついたなと呆れてしまう。この曲ではベートーヴェンの英雄交響曲で始まり、「となりのトトロ」、そして「荒野の七人」のテーマと続くのだから、もう何をかいわんや。それが不自然でもないのが編曲の腕の冴えか。彼らが自分たちでやっているのだとすれば大したもの。

最後の戦い、「ウィリアム・テル」のスイス軍の行進で始まる。蹄の効果音まで登場し、隊列をなして3人が演奏しながら舞台を駆け回る。一転して、次から次へと戦いの音楽がコントを交えて。何曲やっただろう。挙げ句の果てに、ピアノ氏はVincerò! Vincerò! (「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」)と絶唱する始末。こりゃあ、タモリも裸足の抱腹絶倒だ。

グランデ・フィナーレ・ウルティモ、「荒城の月」をモチーフにした変奏曲だ。この曲をモーツァルト風、ヨハン・シュトラウス風とか、いろいろなヴァリエーションで聴かせる。西洋音楽の語法とはちょっと違う旋律だから難しい気もするが、いかにもそれらしくアレンジしてしまうのだから、そのミスマッチを含めて面白い。

4曲をピックアップしてみたが、やはり説明困難。一見(一聴?)に如かずの類だ。この日は何台ものテレビカメラが入っていて、12月中旬の深夜に読売テレビで放映されるらしいから、関西圏の人でご興味のある方には録画をお勧めしたい。なお、東京では20日にトッパンホールでの公演が予定されている。

聴き終えて(観終えて)、プログラムにあった「物議」の意味がよく判った。弦楽四重奏の第一部門、ピアノ三重奏及びピアノ四重奏の第二部門が純然たる室内楽コンクールであるのに対し、2名~6名の室内楽、楽器編成は自由とするフェスタ部門には多様な団体が登場する。ピアノデュオあり、弦楽合奏あり、民俗楽器あり、古楽器あり、それの優劣を付けるのは至難だ。自分でも一度やってみたからよく判る。そんな中、このダス・クライネ・ヴィーン・トリオが一般審査員の圧倒的支持を得たというのも頷ける。理屈抜きに楽しいのだ。一方で専門家の審査員から異論が出たことも想像に難くない。こんな「色物」を第1位にしてよいのかといった声が聞こえるようだ。しかし、それは一般審査員を入れる以上、ある程度は避けられないことだと思う。主催者にとっては頭の痛いことでもあろうが、クラシックの裾野を拡げるという効用は決して否定できないだろう。クラシックのコミック・バンドなどと卑称してはいけない。

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