びわ湖ホール「連隊の娘」 〜 これはほんとに快挙 、再演待望
2017/2/12

これが虫の知らせというものだろうか。朝起きて、二日目はどうなるか判らないが、当日券があるなら今日も出かけてみようかと。仕事のカミサンを送り迎えしても、その間の時間で大津往復は可能だ。金曜日に職場のロッカーに財布を忘れてきてしまい手許不如意だが、キャッシュレスのいまどき、何とでもなる。先ずは通帳を持って郵便局のATMへ。カードがなくても引き出せるのはゆうちょ銀行のアドバンテージだなあ。びわ湖ホールに電話すると、当日券も充分にあるようだ。そうと決まれば、いつものルート、宇治田原経由で大津にクルマを走らせる。

マリー:飯嶋幸子
 トニオ:小堀勇介
 侯爵夫人:鈴木望
 スュルピス:五島真澄
 オルテンシウス 林隆史
 農夫:増田貴寛
 伍長:内山建人
 管弦楽:大阪交響楽団
 指揮:園田隆一郎
 演出・お話:中村敬一

虫の知らせは正しかった。これは前日をさらに上回るパフォーマンスだ。二日間の公演で終わらせるのはもったいない。次のびわ湖ホール声楽アンサンブルの「ミカド」は新国立劇場での公演も予定されているが、それよりも、こっちをもって行けばいいのに。首都圏のオペラゴーアーたちへの衝撃度は段違いだと思うのだけど…

先ずもって、トニオを歌った小堀勇介さん、新国立劇場オペラ研修所第15期修了で、渡欧しアルベルト・ゼッダにも師事し、現地でベルカントものを歌っているとのプロフィールがプログラムにある。彼は声楽アンサンブルのメンバーではなく、今回ただ一人の客演だ。
 実際に聴いてみて、これは、間違いなく逸材。前日の山本康寛さんに感じた残念なところが、この人には、ない。第1幕のアリアでハイCを上回る高音を決めたのは、それはそれとして、やんやの喝采だが、この人には中音域の色気もあるところが得がたいものだ。語弊はあるがヘンなレパートリーに手を出さず、一直線に進んでほしいものだ。
 はじめ両日のどちらに行こうかと、とりあえず初日のチケットを入手したのだが、二日目には一層の驚きが待っていた。それが虫の知らせというものだ。NYにいたとき、土曜の明け方の夢に、キリ・テ・カナワが出てきて、「そろそろ起きて立見席発売に並ばないと」と教えてくれたことを思い出す(ドミンゴの「オテロ」、彼女はデズデモナ役)。

マリーの飯嶋幸子さんは、前日の藤村江李奈さんとは違った意味で個性的だ。この人は、表情が豊かで演技のキレがある。どちらかと言えばコミカルな場面で本領発揮する人かも知れない。歌唱の面では藤村さんに遜色ないし、高音の安定感は飯嶋さんが僅かに勝る。一方で、しっとりと聴かせる箇所では藤村さんに分があるようだ。ただ、それも高次元での比較に過ぎず、こんな二人が声楽アンサンブルのメンバーに名を連ねているとは、おそるべし。

主役二人以外のメンバーも好演だし、前日よりもコーラスの動きがスムースだ。オーケストラもずいぶんこなれた印象だ。たぶん、初日の公演を終えて修正が施されたのだろう。プレトークでの中村敬一さんの話は基本線は同様だが、少し異同があった。原稿棒読みじゃなく終始客のほうを向きながら、頭の中の多くのネタから言葉を紡ぐとこうなる。プレゼンテーションとはそういうものだ。前日同様に軍楽がモチーフとして多用されているという説明の際に、ピットの打楽器奏者に小太鼓のリズムを叩いてみてくれという場面があり、それに応えて"Oui、monsieur"というやりとりは前日にはなかったもの。オーケストラもリラックスしたのかも。いろいろと微調整しているなあ。

これは、前日からの演出の微修正か、それとも歌い手により変えているのか不明だが、第1幕でマリーが無伴奏で登場する場面、第2幕で歌のレッスンの際に勝手に歌い出す場面で、「琵琶湖周航の歌」や「ルチア」狂乱の場のモチーフを引用するといった遊びを入れている。ご当地ものや、ドニゼッティの悲劇の大傑作を忍び込ませるなんて洒落ているし、とってつけた印象もない。前者は半分ぐらいの人は気付いたんじゃないかな。

飯嶋幸子さんの演技は藤村江李奈さんとずいぶん違う。兵士たちに高く担ぎ上げられるシーンや、踊りや歌のレッスンに辟易として勢いよくソファにジャンプしてペティコートまる出しになるシーンなんて前日にはなかったと思う。農夫とクラーケントルプ公爵夫人を演じたアンサンブルメンバーの増田貴寛さんの後者の扮装は、巨躯と相俟ってマツコ・デラックスそのもので吹き出しそうだ。前日以上にそこを強調している節もある。演出家も前日を踏まえて楽しんでやっている感じだ。それが客席にも伝わる。

びわ湖ホールのプロデュースオペラでは、いよいよ来月、「ニーベルンクの指輪」が「ラインの黄金」で幕を開ける。そちらに関心が行きがちだが、どうしてどうして、"オペラへの招待"シリーズとして上演される、びわ湖ホール声楽アンサンブル公演から目が離せない。この「連隊の娘」は、見逃した人、聴き逃した人、そしてもう一度観たい人のためにも、是非再演してほしいと思う。

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