佐渡オペラ「フィガロの結婚」 〜 暑気払いならず
2017/7/17

真夏の恒例行事となった西宮の佐渡オペラ、今回の「フィガロの結婚」は低調だ。これまでに取り上げていても不思議じゃない作品だけど、やはりこれは難しい。私は満足出来る公演に出逢ったことは一度もない。今回もやたらに長さを感じさせる公演だった。

アルマヴィーヴァ伯爵:髙田智宏
 伯爵夫人:並河寿美
 スザンナ:中村恵理
 フィガロ:町英和
 ケルビーノ:ベサニー・ヒックマン
 マルチェリーナ:清水華澄
 バルトロ:志村文彦
 バジリオ/ドン・クルツィオ:渡辺大
 アントニオ:晴雅彦
 バルバリーナ:三宅理恵
 合唱:ひょうごプロデュースオペラ合唱団
 管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
 チェンバロ:ケヴィン・マーフィー
 指揮:佐渡裕
 演出:デヴィッド・ニース
 装置・衣裳:ロバート・パージオラ

てっきり高田智宏さんがフィガロを歌うものだと思い込んでいた。違った、アルマヴィーヴァ伯爵だった。この人は買っているバリトンで、伯爵も悪くないのだけど、ここはフィガロに充ててほしかった。というのも、フィガロの町英和さんがいまひとつだったから。彼も一生懸命歌ってはいるのだけど、いかんせん声に魅力がないし、弱い。「セヴィリアの理髪師」の最後のアリアを聴けば、前作では領主アルマヴィーヴァがオペラの中心であることは歴然だが、モーツァルトの続編になると、主役は反体制の旗手フィガロになるはず。原作の毒は薄められているとはいえ、台本の随所にそういう台詞が出てくる。口当たりのいい笑劇で済ますなら軽い歌い手でもいいのだろうが、私はここのフィガロには声の強靭さが必要だと思う。そういう点でも不満だ。どうしてこんなキャスティングにしたんだろう。

キャスティングで言うなら、今回のメンバーで成功したのは中村恵理さんだけではないかな。スザンナで想定されるよりも芯のある声で、曲者フィガロの伴侶としての存在感がある。長いオペラで、この人の登場場面だけが聴きものというのも困ることだけど。
 並河寿美さんはこの役には合わない。ヴェルディのプリマを歌う人に、モーツァルトに親和性がある人はあまりいないのではないだろうか。同じイタリア語だといっても音楽が全然違う。どっちがいいわるいの問題ではないと思う。
 国内キャストに混じって唯一、ベサニー・ヒックマンは舞台姿はケルビーノにうってつけなんだが、声のほうはどうなんだろうか。この役に漂う不思議な色気がないのだ。
 そんなことで、正直なところ楽しめなかった。佐渡さん指揮のオーケストラも、第1幕あたりは性急なテンポになるところが多くて歌がうまく乗らない。毎年メンバーが替わる楽団だからシステムの上からも熟成は望めないにしても、音楽の呼吸を伝えるのは指揮者の仕事だろうと思う。よく判らないがレチタティーヴォは、ほとんどカットせずにやったのではないだろうか。なので余計に長い。ドラマの進行上は妥当なんだろうが、ただでさえアンサンブルのいくつかでは冗長に感じるところが多いのに輪をかける感じだ。そんなことを言う私は「フィガロ」のよい聴き手ではないのだろう。4階のサイドバルコニーなので舞台は半分しか見えないが、至って平凡な演出、半分だけでも全く問題なかった。

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