みつなかオペラ「妖精ヴィリ」&「外套」 〜 ずいぶんの差
2017/10/8

みつなかオペラのプッチーニ・シリーズの第2弾、珍しい組合せのダブルビルである。プッチーニの作品はずいぶん観ていても、第一作の「妖精ヴィリ」と第二作の「エドガール」は観たことがない。ヴェルディにしてもワーグナーにしても後世のレパートリーに定着しているのは第三作以降だから、そういうものかも知れない。今回のように二つ並べて聴くと、その作品のレベルの違いが余計に際立つ。片や処女作、片や練達の筆、この間33年、作曲家の進境が如実にわかる。

【妖精ヴィッリ】
  アンナ:内藤里美
  ロベルト:小林峻
  グリエルモ:森寿美
 【外套】
  ミケーレ:桝貴志
  ジョルジェッタ:並河寿美
  ルイージ:松本薫平
  フルーゴラ:福原寿美枝
  ティンカ:谷口耕平
  タルパ:片桐直樹
  恋人たち女性:西上亜月子
  恋人たち男性:矢野勇志
  小唄売り:岩城拓也
  管弦楽:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
  バレエ:法村友井バレエ団
  合唱:みつなかオペラ合唱団
  指揮:牧村邦彦
  演出:井原広樹
  合唱指揮:岩城拓也
  装置:アントニオ・マストロマッテイ
  振付:大力小百合
  照明:原中治美
  舞台監督:青木一雄
  マエストロ・コッラボラトーレ:高﨑三千

先ずは処女作の「妖精ヴィリ」、楽譜出版社ソンツォーニョの一幕オペラのコンクールに応募したものの、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」に栄誉が与えられた因縁の作品だ。そのときは規程に沿って一幕仕立てだったらしいが、そうだとしても優勝は覚束なかっただろうと想像できる。ドラマツルギーの脆弱さ、後年の個性は感じさせるものの未熟な管弦楽やアンサンブルの扱いは隠せないし、ときどき取り上げられるテノールのアリア以外に見るべきものは多くないというのが正直なところか。

第1幕が結婚式の場面で、第2幕が放蕩の末に帰還した男が呪い殺される場面、ドラマの転回は幕間にあるので、字幕で説明しないと辻褄が合わないのだから何をかいわんやである。まあ、それでも音楽的な魅力があれば良しとするのだが、第1幕は冗長感がある。プッチーニ作品で唯一のバレエ音楽も傑作とは言い難い。後年の傑作群がなければ、たぶん舞台にかけられることはないオペラだろう。ロベルト役の小林峻さんの熱唱はよいにしても、アンナ役の内藤里美さんはあまり買えない。美声だけど、言葉が不明瞭で聴いていて落ち着かない。ソプラノにこういう人は少なくない。台本をきちんと音読できるようになってから歌ってほしい。字幕があるから、原語だからわからないからと、言葉に手を抜いていいわけではない。いくら綺麗な響きになったとしても何を言っているのか不明ではオペラではないと思う。

休憩を挟んで「外套」。完成度の低い処女作のあとに聴くと、登場人物の会話や独白の処理の巧みさ自然さに瞠目する。三部作の残り二つにも共通するところで、晩年のプッチーニが到達した境地を垣間見る思いだ。それが必ずしもポピュラリティに結びつかなくとも、これはやはり20世紀のオペラだと感じさせる。

並河寿美さんが素晴らしい。いくつもの役を聴いているが、このジョルジェッタはまさに填まり役だ。やや暗みがありメゾソプラノ的な厚みもある声質と、辛酸を舐めたヒロインの心情表現がピタリと重なる。そして、台本に書かれた言葉の意味をしっかりと伝える歌唱になっている。ちょっと次元が違う充実ぶりだ。つい先日、この人のミミを聴いたばかりなので、この「外套」に「ボエーム」の引用が出てくるところでは思わずニヤリとする。あのミミもよかったのだが、声質的には合わないところもあったから。

亭主役の桝貴志さんはこの役には声が少し軽いのではと思ったが、聴いてみるとそんなことはない。女房の心が離れたことへの苦悩、間男への憎悪、表現になかなかの強烈さがある。松本薫平さんはあまり好調とは言えなかったが、この若者の弱さを表現するという点では違和感がない。脇役のフルーゴラに福原寿美枝さん、タルパに片桐直樹さんとベテランが配されているのはこの舞台の充実に大きく貢献している。装置や人の動かし方も自然で違和感がない。なかなか耳だけではわからない「外套」の真価が舞台上演だとストレートに伝わってくる。幕切れ、外套に隠したルイージの死体を曝け出し放り出す。「蒲田行進曲」まではいかないが、舞台上の4段の階段落ちには驚いた。よく見ると、幅2mぐらいは階段の角にクッション材が貼られていたようで、松本さんに怪我はなかったようだけど、オペラ歌手も体当たり演技で大変だなあ。

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