エリシュカ/大阪フィル定期 〜 最後のドヴォルザーク
2017/10/20

足取りもしっかりしているし、椅子はおろか指揮台の手摺りにも触れず、立ち姿も齢86の老人のそれではなく端然としている。ラドミル・エリシュカ、これが最後の来日というのはとても残念なこと。長距離に及ぶ旅行を止められてということのようらしい。ずいぶんご無沙汰の大阪フィルだけど、このコンサートを逃すと悔いが残る。アルベルト・ゼッダと大阪音楽大学との最後のコンサートを聴き逃した悔恨もまだ記憶に新しいのだから。

ドヴォルザーク:伝説曲op.59より第1~4曲
 ドヴォルザーク:テ・デウムop.103
 ドヴォルザーク:交響曲第6番ニ長調op.60
 ソプラノ:木下美穂子
 バリトン:青山貴
 合唱:大阪フィルハーモニー合唱団
 合唱指導:福島章恭
 管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
 指揮:ラドミル・エリシュカ

ドヴォルザークという作曲家は作品数が多いのに、コンサートで取り上げられるものといえば、新世界交響曲とチェロ協奏曲が桁違いで、他の作品を聞く機会が少ないという人だ。長らくコンサートに足を運んでいながら、今回のプログラムはいずれも初めて聞く曲だ。

最初の弦楽合奏の音からしてオーケストラの気合いが伝わってくる。この日は特別なコンサートということを楽団員もよくわかっているのだ。ルーチンの演奏ではない。そしてそのまま最後まで、オーケストラが弛緩することはない。もちろんエリシュカ氏のドヴォルザークの音楽への傾倒あってのことだろうが、大傑作とは呼べない作品が至高の音楽に聞こえるから不思議だ。テ・デウムでの青山貴さんは立派な歌だが、木下美穂子さんはビブラートが耳障りで人選ミスだと思った。気になったのはそれぐらいで、バックのオーケストラはテンポ、ダイナミックスとも間然としない。コーラスも健闘している。

後半のシンフォニーとなると、もう緩急自在。ああ、こういうふうに展開するのか、ここでタメを作って一気呵成に盛り上げるのかと、知らない曲なりに面白く聴ける。マゼールあたりがやると上手さに舌を巻く一方でわざとらしさを感じるのだが、エリシュカの場合だと自然にすうっと耳に入って来るのが不思議だ。そして、この人の紡ぎ出す音楽には暖かみがあるのだ。
 ずっと定期会員を続けておられる昔の職場の先輩の姿を見かけ、休憩時間に何年か振りにお話した。エリシュカの来日がもうないということを、同様に残念がっておられた。曰く「前に、モーツァルトのシンフォニーをやったでしょ、こんなにいい曲だったのかと吃驚した覚えがありますよ」と。あっ、それそれ、100%同感。あれは「プラハ」交響曲だった。ヤナーチェクのグラゴール・ミサは圧倒的だったが、それに劣らず、あんなモーツァルトは聴いたことがなかった。初日を聴いて、あまりの素晴らしさに翌日も駆けつけたときのことを思い出す。

会場で配布されるプログラム、大阪フィルのものは何十年も代わり映えしない。馴染みのない曲にしては簡単すぎる曲目解説、そんなのどうでもいい会員のリストのページ、前回定期の薄っぺらな感想、今後の演奏会の案内、読むべきところはほとんどない。数あるプロオーケストラのプログラムの中で最低の部類だと思う。そんな中に、第三代の音楽監督に尾高忠明氏が就任するという記述があった。これはどうなんだろう。年齢もそうだし、レパートリーの狭さからして、このポストに適任とはとても言えない気がする。 確か、この人、音楽監督でありながら指揮者として一度も新国立劇場のピットに入らなかったのでは。普通なら年間四回の定期演奏会に加え、特別演奏会、さらにはアウトリーチ活動もあるはずだ。この人がどんなメニューを提示してくれるんだろう。就任前にとやかく言うのはよろしくないとは思うし、予想を覆す活躍を期待したいところだが、大植英次氏が第二代の音楽監督に就任したときのようなワクワク感が全くないのは私だけかな。

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