大阪国際フェスティバル「チェネレントラ」 〜 世代交代の波
2018/5/12

この日は何回目だか忘れたが私の誕生日、昭和、平成と来て、来年には別の年号に変わるはずだから、数えるのもややこしい。ともかく、もうロッシーニより年上になってしまった(この作曲家は2月29日生まれ)。冗談はさておき、土曜の午後、改築5周年となるフェスティバルホールへ。昔は普通にウィーン国立歌劇場などが来ていたこのイベントも、ネームバリューだけだど今や見る影もない。しかしながら、これはなかなかの佳演、伸び盛りの若い世代の歌手は聴き応えがある。

アンジェリーナ:脇園彩
 ラミーロ:小堀勇介
 ダンディーニ:押川浩士
 ドン・マニフィコ:谷友博
 クロリンダ:光岡暁恵
 ティズベ:米谷朋子
 アリドーロ:伊藤貴之
 合唱:藤原歌劇団合唱部
 管弦楽:日本センチュリー交響楽団
 指揮:園田隆一郎
 演出:フランチェスコ・ベッロット
 演出補:ピエーラ・ラヴァージオ
 舞台美術:アンジェロ・サーラ
 舞台美術補・衣裳:アルフレード・コルノ
 照明:クラウディオ・シュミット

チェネレントラ役の脇園彩さんはイタリアで活躍中の若手のよう、既に主役級で出演したDVDも出ているみたいだ。「フランチェスカ・ダ・リミニ」、ん、ヴェリズモ作品を歌う人がロッシーニ、いや違った、ザンドナーイじゃなくてメルカダンテ、それだとベルカントものか。
 リリコやリリコレッジェーロのソプラノは数多いが、メッツォとなると国内でも稀少だ。やや暗みを帯びた低音部と華やかな高音部との均質感が課題のような感じたが、これからに期待の持てる人だ。大阪国際フェスティバルの公演に抜擢されるだけのことはある。イタリア在住ということだから、しばらくは彼の地でキャリアを築いてほしいものだ。

王子役に小堀勇介さんの名前があったので、私はこのチケットを購入したようなものだ。昨年のびわ湖ホールでの「連隊の娘」の二日目、難役トニオを完璧に歌える日本人テノールがいることに驚嘆したものである。ラミーロ役はその系譜、期待せずにはおれない。そして、予想どおりの素晴らしい歌、無理に高音を張り上げるのじゃなしに、彼の場合には自然に出るから、音楽の流れを崩さない。第2幕のアリアはやんやの喝采。そして、この人のレチタティーヴォの美しさも特筆ものだ。流麗なイントネーションのイタリア語は大変に聴きやすい。これはとても大事なこと。

ドン・マニフィコの谷友博さんは久しぶりに聴く。デビューの頃には注目したものの、その後は力任せのような歌いぶりが耳について停滞感があったのだが、意外にブッファの適性があるのかも知れない。くそ真面目に歌うことで反って可笑しさが増す。そういうものだろう。新生面に期待だ。

家庭教師アリドーロ役の伊藤貴之さんがやや低調だったものの、他のキャストにも穴がなく、楽しめた公演だった。幕切れ近く、聴いたことのないクロリンダのアリアが歌われたのに驚く。これはロッシーニの筆になるものではなく、別人(ルーカ・アゴリーニ)作曲のものらしい。お話の進行からすれば、ここに無くてもいい歌だが、藤原歌劇団の公演でも主役級を歌う光岡暁恵さんへの配慮ということだろうか。

そして、ピット。びわ湖ホールの「連隊の娘」と同様、ベルカントものを得意とする園田隆一郎さんの指揮だが、日本センチュリー交響楽団のノリはいまひとつの感じ。真面目に丁寧に演奏しているのだけど、ロッシーニの愉悦や躍動がなかなか伝わってこない。これは呼吸のようなものだし、すぐに身につくものでもないか。増えてきたとはいえ、まだ主要レパートリーとしてロッシーニ作品がかかる機会は少ない。園田さんはレチタティーヴォのフォルテピアノ伴奏にディズニー映画のモチーフを忍ばせたりする洒落っ気を見せるのだが、オーケストラのほうの遊び心はあまり感じられない。

この舞台は、2008年のベルガモ・ドニゼッティ歌劇場でのプロダクションの改訂版だそうだ。舞台中央に巨大な絵本が積まれ、一番上のCENERENTOLAのページがめくられると、本の中から登場人物が登場するという仕掛けだ。他の本はというと、PINOCCHIO、BIANCA NEVE(白雪姫)、Peter Panだとかのタイトルが読み取れる。 狂言回しとして四匹のネズミに分した人物(?)が登場する。馬車の代わりに玩具のような自動車だったりする。お伽噺だから何でもありなので構わないし、そんなに趣味の悪い演出ではない。

沸き立つようなロッシーニの音楽ということでは、より以上を期待したいところもあるが、生きのいい若い歌い手の声も聴けたし、結構な誕生日プレゼントかな。

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