メトロポリタンオペラ「愛の妙薬」 ~ 大テノールの至芸
New York 1987/10/2

まさにMETに来て良かったと感じた一夜、これまで観てきたニューヨーク・シティ・オペラでもなかなかいい公演はあったけど、この日はわくわく大興奮。もう"往年の"という形容詞が付きそうなテノール、そしてその歌が大好きなテノール、カルロ・ベルゴンツィに脱帽です。

公演のキャスト表

この人、遠に60は超えているはずなのに見事にコントロールされた声、終幕のネモリーノのアリア「人知れぬ涙」では拍手が鳴りやまない状態だ。歌のスタイル、フォームがしっかりしているから長持ちするのだろう。

劇の内容にもよるのだろうが、ベルゴンツィはなかなかの芸達者。間の取り方が絶妙で、関西人ならわかるあの藤山寛美を思わせるような呼吸、思わず笑いが出る。このドニゼッティのナンセンスな話をこんな風に洒落てやられると、面白さを再認識してしまう。無理に笑わせようとするところなど微塵もなく、とても自然。そして歌がきちんとしている。それがユーモアに繋がる。これが王道というもの。

ベルゴンツィの歌うヴェルディを、これまで録音でどれだけ聴いてきたことだろう。残念なことは、このシーズンに私がベルゴンツィを聴けるのは、このネモリーノだけ。もう彼が舞台から引退する日も遠くないと思うだけに、叶わぬ夢かも知れないが、ヴェルディの役柄で聴いてみたいものだ。

ナサニエル・メリルのプロダクションは、かなりの年代もののようだ。装置もやや古びているような気配で、あまりお金もかかっていない。それはともかく、歌が素晴らしければ演出は、その邪魔さえしなければ二の次でいい。

ラルフ・ヴァイケルト指揮、ヒロイン、アディーナはソーナ・ガザリアン、ベルコーレにブライアン・シェナイダー、ドルカマーラはエンリコ・フィッソーレ、ジャンネッタにドーン・アップショウというキャスト、アンサンブルも充実していた。

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