メトロポリタンオペラ「マノン」 〜 もう一人の大テノール
New York 1987/10/23

METで、私の大好きなテノール、カルロ・ベルゴンツィをようやく聴けたのに続き、この日はもう一人の大テノール、アルフレード・クラウスを聴く。どちらも"往年の"という冠が付いてもおかしくない年齢だが、いまだ現役、息の長い歌い手だ。この二人に共通するのは無理のない発声と崩れない歌のフォームだろう。レパートリーを慎重に選ぶということも長いキャリアの秘密か。

マスネの「マノン」を観るのは初めてだ。プッチーニの「マノン・レスコー」に比べるとずいぶん長い。30分程度の幕が四つで聴く側の集中力に何の問題もないプッチーニと、マスネの冗長気味の音楽とじぁ大きな違いがある。それにこちらは5幕もあるのだから。でも、ジャン=ピエール・ポネルの舞台はとても美しい。第3幕第1場のレーヌ通りの場面なんて息を呑むほどの華麗さだ。フランコ・ゼッフィレッリの豪奢な演出とはちょっと違って、華やかでいて品がある。街頭に行き交う人々や大道芸人など、舞台のあちこちでとても細かい動きがある。丁寧な作り込みだ。この場面が真ん中にあって、前後の幕もシックな色調でセンスを感じる。ところが、この演出には賛否両論があるようだ。悲劇的なストーリーが演出の過剰によって置き去りにされているとかの類の意見だ。私はそうは思わなかったのだけど。

マノン役はキャロル・ヴァネス、妖艶というよりも凛としたイメージだ。レスコー軍曹はジーノ・キリコ。二人のアメリカ生まれの従兄妹役にデ・グリューのアルフレード・クラウスが入るというキャスト、まさにゲストという感じか。大方のお客のお目当てはクラウスなんだろうと思う。少し前の上演ではジーノ・キリコは同じだが、キャサリン・マルフィターノとヴィンソン・コールという組合せだったので、メンバーがだいぶ変わった。

やはりクラウスは素敵だ。もう60歳ぐらいだけど、ちっとも衰えは感じない。と言っても初めてナマで聴くわけなんだけど。まあ、これまで録音で聴いたときのイメージはそのままということだ。とにかく歌が崩れることがない。大きなMETの空間でも力強さに不足するわけでもないし、節度を保った歌い回しに感心する。

指揮者のマニュエル・ロザンタルはオッフェンバック作品を編曲したバレエ音楽「パリの喜び」を作った人らしい。初めて買ったクラシックのレコードが「アルルの女」組曲だったように思うが、それとカップリングされていたのが「パリの喜び」。今は手許にないが、どんな曲だったかなあ。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system