メトロポリタンオペラ「トロヴァトーレ」 ~ これはゴルビー余波?
New York 1987/12/10

ついに見た、聴いた、ルチャーノ・パヴァロッティ、それにジョーン・サザランド、レオ・ヌッチ、エレナ・オブラスツォヴァ。これだけの顔ぶれは、流石にすごいとしか言いようがない。

オブラスツォヴァは、たまたまニューヨークにリサイタルだけの予定で来ていたのだが、急遽MET出演が決まり、3回だけアズチェーナを歌うことになったもの。その煽りで降ろされた歌手(リヴィア・ブダイ)には気の毒にしても、より高名なほうにキャストが変更になるのは珍しいこと。ちょうどワシントンで米ソ首脳会談が行われていて、ゴルバチョフ書記長夫妻に対してアメリカがフィーバー状態のなか、何らかの政治的背景があったのかも知れない。ともかく、こちらにすれば結構な話で、寒い土曜の朝、3時間近く並んで手に入れたわずか6ドルの立ち見チケット、とっても値打ちがある。

日本では、リチャード・ボニングとサザランドのコンビとなると、斯界の権威(?)、評論家の高崎義男氏はクソミソに言うが、実際に生で聴いてみると、どうもそれは偏狭な論評という気がしてならない。完璧なテクニックと美声、それを徹底的にバックアップするオーケストラと指揮者、ドラマからの遊離云々のことを言う前に歌に酔える、これもオペラの楽しみではないかしら。

パヴァロッティはこのシーズンの前に80ポンド(約40キロ)の減量をしたとかで、依然巨漢であるにしても、見ようによっては多少スリムになって登場、声は生で聴くと、思ったよりも少し重い声だ。もちろん、売りものの高音は健在。

ヌッチは美声だけど、私の印象だと肩に力が入りすぎ。この人は最近は重い役柄も歌っているようだけど、ルーナ伯爵ならそれほど気張らなくても充分に思えるのだか…。

さて、何と言っても、この日のハイライトはオブラスツォヴァ。最初はちょっと硬い感じだったものの、だんだんと調子を上げて、パヴァロッティ、ヌッチとの重唱は大変な聴きもの。美しい顔立ちの人だけに、ジプシーの老婆(?)役をやると、かえって凄みが出る。

舞台は新演出というものの、はっきり言って低予算版、良く言えばシンプルだが、目を惹くところはほとんどない。まあ、このオペラ自体が、声を歌を聴かせる作品だし、演出家が余計なことをしないほうがいいのかも知れない。

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