メトロポリタンオペラ「トゥーランドット」 ~ おっと、天地無用
New York 1987/12/26

これは先シーズンの新演出、その時にはプラシド・ドミンゴにエヴァ・マルトン、指揮はジェームズ・レヴァインで評判になったプロダクションの再演になる。歌手もさることながら、フランコ・ゼッフィレッリの豪華絢爛な舞台が評判になったものだ。

今シーズンのタクトはネッロ・サンティ、タイトルロールがゲーナ・ディミトローヴァ、リューにアプリーレ・ミッロ、カラフはヴラディミール・ポポフという顔ぶれ。先シーズンのことは知らないので比較は出来ないが、数日前に観た「ホフマン物語」のあとでは印象がそれほど強烈とは言えないものの、今シーズンのMETの看板たり得る自信作だと思う。

今やトゥーランドットの第一人者と言っても過言でないディミトローヴァのニューヨーク初お目見え、ゼッフィレッリの金に糸目をつけないような舞台、贅沢な公演です。これもポンと巨額のお金を寄付する富豪(ハリントン夫人)のおかげということ。お金の使い方のスケールが違う。

公演のキャスト表

そして舞台。第2幕、三人の宦官の長い重唱から謎解きの場面に移るとき、インストルメンタルの経過部分でいったん暗転、舞台に明かりが戻ったときには、眩いばかりの北京の王宮のシーン。場内からは、大きな拍手とどよめきが…。

カラフ役のポポフはやや力不足の印象があったが、歌手のレベルは文句なし。ディミトローヴァの硬質で力のある声はほんとうに圧倒的、満を持してのニューヨークデビューということだろう。もう、完全にノックアウトだ。

華麗な演出の難を言えば、第1幕の群衆シーン、やたらに人の数が多く、主役がどこにいるのかさっぱり分からないこと。それと、謎解きの場面で宦官たちが広げる答が書かれた巻物、漢字が読めない悲しさ、天地逆さまに広げているのがオペラグラスを通して確認できる。これは1986年のロイヤルオペラ来日公演でも同じ事態に遭遇した。ゼッフィレッリも、こんなに凝った舞台を作るなら、スタッフに中国人か日本人を入れてチェックすべきだっただろう。欧米人だと、当たり前のように逆になるのだから。

このことを幕間に隣のイタリア系アメリカ人とおぼしきオジサンに話すと、たいそう面白がってくれた。その人曰く、「私は、(ユッシ・)ビョルリンクや(リチャード・)タッカーがこの役(カラフ)を歌うのを聴いたことがあるんだ。本当にトランペットのような声だったよ!」

こちらには、そんなファンがふつうにいる。私が録音でしか知らない大歌手の全盛期を生で聴いた人たちが…

指揮者のネッロ・サンティ。私は、こういう指揮者が大好きだ。ツボを絶対に外さない手堅さと、声を熟知した練達さ。レコード産業には乗りにくいのだろうが、歌手からの信頼は厚いのが肯ける(ドミンゴも自著に書いていた)。かのトゥリオ・セラフィンほど高名ではないにしろ、イタリアオペラの巨匠であることは疑いない。ニューヨークではまた彼の指揮が聴けるだろう。

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