メトロポリタンオペラ「マクベス」 ~ 呪われたオペラ
New York 1988/1/7・15

METの幕間に起きた惨事は、「マクベス」のマチネを第2幕で打ち切りという事態を招いた。上層階から観客が転落死(自殺らしい)するという異常な事件。今シーズンの「マクベス」はキャンセルの連続で崩壊状態の上に、追い討ちをかけるような衝撃的な出来事。これは1月23日のこと。METの天井桟敷からは相当の高度感だし、かつ低い手摺りで、確かにあまり気持ちのいいものではない。しかし、まさか本当に落ちるとは…。オペラ見物も命がけ(頭上注意!)。

幸いなことに、その日は客席に居合わせなかったものの、「マクベス」はシーズン初日(1月7日)だけでなく、15日にも私は行っているので人ごととは思えない。

レナート・ブルゾンのキャンセル(METではスター歌手へのギャラが安いのが原因との噂)に始まり、エヴァ・マルトン、ジュゼッペ・シノーポリと、この公演のキーパーソンがことごとくキャンセル、残ったのはご当地サミュエル・レイミーだけという有様。

結局、初日のメンバーは、シノーポリに替わる指揮者がカジミエス・コード、マクベスにフレデリック・バーキナル、マクベス夫人がエリサベス・コネル、マグダフがヴィァケスラフ・ポロゾフ、バンクォーがサミュエル・レイミーというもの。レイミーを除けば聞いたことのない名前ばかりで、METのキャストとしては異例とも言える。

公演自体の水準は決して非難されるようなものではなかったにも拘わらず、初日の客席には何とも言えない失望感が漂い、反応も至って冷淡。ただ、レイミーのアリアのときだけはヤケクソのような大喝采。素晴らしい歌だったし、今や大スターということでしょうが、キャンセルした三人に対する精一杯の非難も込められていたように、私には感じられた。

ジョン・バリーの演出は、宴席のテーブルの下から幽霊に扮した役者が出たり隠れたりという何だか滑稽な場面があったりしたが、全体としてはオーソドックス、魔女達の巨大な釜が登場したりするのはいかにもMETらしい。

1月15日の公演のキャストは同じ。風邪を引いたのか気分がすぐれず、途中まで観て帰宅した。行ったからには演奏が良くなくても最後まで付き合う私にしてはとても珍しいこと。

シリーズ後半の「マクベス」には、シャーリー・ヴァーレット、フスティーノ・ディアスらの出演が決まり、MET当局もキャストの梃子入れを図ったようだが、残念ながら、そちらは観られず。

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