メトロポリタンオペラ「ルイーザ・ミッレル」 〜 ドミンゴのはずが
New York 1988/2/10・19

前年の夏にニューヨークに着任したとき、楽しみにしていたMETシーズン後半の演目のひとつが「ルイーザ・ミッレル」だった。そのときにはドミンゴの出演がアナウンスされていたので、チケットを早めに確保していた。ところが、シーズンが始まってからは彼の名前は消えた。「オテロ」のタイトルロールは一枚看板だから変わらないが、シーズン後半は「ホフマン物語」だけになってしまった。パヴァロッティともども、デビュー以来、毎シーズンMETには出演しているテノール、二つ観ることができるなら文句は言うまい。

それで、この「ルイーザ・ミッレル」は割を食ったのか、キャストがずいぶん入れ替わったようだ。ニューヨークタイムズの筆者が観た公演は別の日のものだが、シーズンの最初の公演から主要キャスト6人中5人が交替していると書いている。記事を読むと、私が観た10日と19日(シーズン最終)の折衷的なキャストのようだ。注目公演ではこういうことは少ないが、再演のレパートリー公演だと、毎回のようにキャスト変更があるのは珍しくない。色々な歌手を聴き比べられるというメリットはあるのだろうけど。

私が観た両日ともアプリーレ・ミッロが題名役で、恋人役はエルマンノ・マウーロ、このテノールはMETにしばしば登場し、リリコ・スピントの役柄を歌う。声の大きさからすると確かにMET向きではあるが、繊細な表現とは無縁だ。大きな会場で天井桟敷まで充分に声が届くということで、重宝されているのだろう。アプリーレ・ミッロはMETで売り出したソプラノ、大歌手になれるかどうか、オーラが不足するような感じで微妙なところだ。父親役はシェリル・ミルンズと、METデビューのジャンカルロ・パスケットの二人、どうもこの役はインパクトがないので評価しにくい。

ピットにはイタリアものの御大、ネッロ・サンティだ。いつもながら、この人が指揮台に立っていると安心感がある。その点ではいいのだが、舞台上に花があるかということでは、両日の公演ともにいささか欲求不満が残るものとなった。やっぱりイタリアオペラは歌なんだなあ。

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