聖ピーター教会のブリテン「カリュー・リヴァー」 ~ これって、オリジナル?
New York 1988/2/26

プログラムの表紙

ニューヨークタイムスに、ミッドタウンの聖ピーター教会で「カリュー・リヴァー」を上演するという小さな記事を見つけ、さっそく出かけた。3rdアヴェニューとレキシントン・アヴェニューに挟まれた54thストリートのシティコープセンター、教会とは言いながら、イメージとは違う近代的な建物だ。CENTER FOR CONTEMPORARY OPERAという団体の主催。

このオペラが、謡曲「すみだ川」を翻案したオペラということは知っていたので、この機会を逃してはならじと、まあ物好きな…。行ってみたら、聴衆は数十人と少ない。客席と言うほどのものはなく、演奏者がすぐ近くに。日本人の観客も私以外にいたような。プログラムを見ると、主宰のリチャード・マーシャル氏(オルガンも担当)以下のスタッフの数の方が多いぐらい。ご多分にもれず、こういうメジャーレパートリーから漏れる作品への取組が財政的に恵まれないのはアメリカでも同様。出演者の名前が載ったページの前に、団体の沿革やら、寄付者のリストがある。

シティコープセンター

オリジナルの謡曲「すみだ川」の能の舞台は観たことがない。ただ「伊勢物語」は読んだことがあるので、その中に出てくる「都鳥」に絡んだ話だとは知っている。まあ、そんな複雑な話でもない。行方知れずになった子ども(トーマス・ボグダン)を探し求めて、母親(チャールズ・ロバート・ステファンズ)が東国まで辿り着き、隅田川で子どもが既に死んだということを渡し守(グレゴリー・パウエル)の話から知るというもの。物語の筋よりも、母親の心理に重点が置かれている作品で、能では舞で、オペラでは歌で、それを表出するということになる。教会劇に翻案したブリテンの意図はつぶさには知らないが、1956年の来日時に鑑賞した能の様式美に打たれたことが、創作のきっかけだという。

さすがに教会オペラ、宗教色もあるので辛気くさいことは否定できない。シンプルなアンサンブルで悲劇と救済を表現しても、日本人の目から見ると、観たことのない能の舞台の方が、より感動的であるようにも思える。

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