メトロポリタンオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」 〜 古色蒼然か
New York 1988/3/11

演出の名前にはグラツィエラ・シュッティとあるから、これは往年のソプラノ歌手だ。METにしては装置もかなり古ぼけて、お蔵入り寸前のプロダクションではないかな。もちろん、台本の深読みなど期待できない。

姉役はキリ・テ・カナワ、妹役にはスーザン・クィトマイヤーで、彼女は前年の「ホフマン物語」のニクラウスがMETデビューだった。ジェームズ・モリスと結婚しているらしいので、あのときには夫婦揃って出演だったんだ。姉妹の恋人役はバリトンがホーカン・ハーゲゴードと読むのだろうか、テノールはデヴィッド・レンドール、デスピーナは新聞評の出た公演ではドーン・アップショウだったが、この日はホン・ヘイクンと読むのだろうか、韓国人ソプラノが歌った。

キリ・テ・カナワ、この人の場合、歌はともかく、容姿の点ではぴったりだ。と言うのも、舞台を観た後に残る歌の印象がないのだ。不思議な歌手である。各地のオペラハウスに登場しているのだが、それが主に英語圏であるのも判らなくはない。イタリア語の言葉のキレの悪さも影響しているのだろうか。ジョーン・サザランドもそうだった。超えられない壁のようなものがあるのかも知れない。そういうことで言えば、この公演にイタリア語ネイティブは一人もおらず、モーツァルトの母国(そんなものがあるのだろうか)の人もいない。まあ、コスモポリタン、モーツァルトだから何でもいいのだけど。

辛うじて 、演出の往年の名歌手がその流れを引いているのだが、こちらは伝統立脚と言えば聞こえがいいものの、何ら刺激のない舞台ときてはその古さと相俟って退屈でしかない。これはエクイタブル財団の寄付によりリバイバルした舞台ということ、保険会社だから保守的なのかも知れないが、リバイバルさせる価値があるのだろうかと疑問に思う。ピットには音楽監督のジェームズ・レヴァイン、ワーグナーもヴェルディも、そしてモーツァルトも、何でもこなすのが務めではあるにしても、この人の得意分野って何なんだろう。

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