ジュリーニ/バイエルン放送響のシューベルト ~ お尻が痛くても
Munich 1993/2/28

ローマの市内観光は陽光の下だったのに、アルプスを越えてミュンヘンに降り立ったら、そこは雪景色。主要都市間は飛行機で1時間ほどなのに、ヨーロッパも広い。日曜日、ミュンヘン市内をぶらついても、30分と外におれない寒さ。それでも、夜ともなれば、コンサート会場に足が向く。

この日は、オペラではなく、オーケストラ。カルロ・マリア・ジュリーニの指揮で、バイエルン放送交響楽団がシューベルトを演奏する。今はヨーロッパを出ることがなく日本では聴くことのできない大指揮者だけに、これはラッキー。

午前中、ヒルトンホテルに着くなり、コンシェルジェのところに。
 「今晩のコンサートのチケット取れるかしら?」
 「ちょっと、今からじゃ…。とにかく会場に行って、窓口で聞いてごらんなさい。何とかなりますよ」
 これは、日本でも海外でも事情は同じ、行けば何とかなる。窓口に列ができていたので、後ろに並ぶと、どうもこれは学生券を求める列のよう。前にいたおにいちゃんがそれらしいことを教えてくれる。かくして、めでたく当日券をゲット。

面白いのはコンサート開始時刻、それは20:05とある。20:00開演としても実際に始まるのは5分過ぎてからだから、確かに正確ではあるのだけれど、いかにもドイツ人的だなあ。
 この日の朝、ローマのホテルで、そしてミュンヘンに向かう朝の飛行機でも一緒だったドイツ人旅行者が、頼んだタクシーが約束の時間に来ないとフロントで怒り心頭に発していたのを思い出した。何も慌てなくても、そのうちタクシーも来るし、乗り込んだら快速で飛ばすから充分に間に合うのに…

このヘラクレスザールという会場は、日本のコンサートホールを見慣れていると、かなり様子が違う。シューボックス型だけど、ホールと言うよりも大広間という感じ。椅子も布張りじゃなくて、座面も木のまま。この方が音はいいのだろうけど、お尻が痛くて…。
 なにしろ、演目はシューベルトの交響曲第9番ハ長調、「グレート」と呼ばれる長いシンフォニーがメインプログラムなのだ。前半は同じく交響曲第4番ハ短調「悲劇的」。外連味のまったくないジュリーニの音楽は耳から心にすっと入ってくる。そんな人だからシューベルトとはとても相性がいい。お尻が痛かったけど、それも演奏の素晴らしさで帳消し。ゆったりとした音楽の流れに身を任せて、素晴らしいひとときを過ごす。
 もう、年齢からして日本で聴くことは不可能と言ってもいいジュリーニ、そのホームグラウンドと言っていいヘラクレスザールで得意のレパートリーを聴けたことは、この旅の大きな収穫かな。

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