セントラルパークのパヴァロッティ ~ うわあ、人だらけ
New York 1993/6/26
EC統合の1992年、二度の海外出張はいずれもヨーロッパ。そして、これが初めての米国出張、ニューヨークは5年ぶり。ここで暮らしたのは一年足らずだけど、想い出多い場所だ。
出張が決まって、いつものようにファイナンシャル・タイムスのパフォーマンス・スケジュールを見る。この時期、オペラはシーズンオフ、どうせ行くなら寒い時期の出張がいいなあと、本末転倒のことを考えている不届者。しかしまあ、悪運の強いこと、ニューヨークタイムスにパヴァロッティの野外コンサートがあるとの記事!もちろん、無料!場所は、セントラルパーク。夜中のセントラルパークなんて、よほどの命知らずでないと行けない場所だけど、こういうイベントのときは大丈夫だろう。
ニューヨーク滞在中の土曜日、駐在していた時にお世話になった秘書の方のマンハッタンの自宅にお邪魔。クリスマスカードのやりとりはあったけど、お目にかかるのは久しぶり。コンサートにお誘いしましたが、「もうトシだから、遠慮しますわ」とのこと。私に、お弁当と、冷えたビールを持たせてくださった。
5thアヴェニューを走るバスでセントラルパーク近くで下車、目指す大芝生に向かう。こりゃ川崎大師か春日大社の初詣並み。人、人、人。コンサートは夜8時から、まだ日は高いのに…
要するに、これはニューヨーカー達のピクニック、キャンピングチェアやテーブルを持ち込んで、飲んだり食べたり。天気もいいので爽快と言いたいところが、暑い!水分補給しなくちゃ、やってられない。そのうちに、何とパヴァロッティ本人が登場して、リハーサルを開始。これでプログラムは大体見当がつく。完全無料のコンサートだけど、プログラム売りが回っている。安いので買って見たら、次のような内容。フルート独奏はアンドレア・グリミネルという若い人、バックはレオーネ・マジェラ指揮のニューヨークフィル。
ヴェルディ「ルイザ・ミラー」序曲
ヴェルディ「ルイザ・ミラー」から「穏やかな夜に」
メルカダンテ「フルートと弦楽器のための協奏曲ホ短調」から
「ロンド・ルッソ」
ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」から「わが祖先の墓よ」~
「やがてこの世に別れを告げよう」
ヴェルディ「シチリアの夕べの祈り」序曲
チレア「アルルの女」から「フェデリーコの嘆き」
* * *
レオンカヴァッロ「マッティナータ」
マスカンニ「セレナータ」
ビクシオ「わが歌を風に乗せて(マンマ)」
ビゼー「カルメン幻想曲」
ディ・ラザーロ「ローマのギター」
シベッラ「ジロメッタ」
デンツァ「魅惑の瞳」
ヴェルディ「ラ・トラヴィアータ」第3幕への前奏曲
デ・クレシェンツァ「つばめは古巣へ」
デ・クルティス「忘れな草」
プログラムに載っているスポンサーの名前、parmalatというのは何だろう。映画会社か、病院のベッドか。いやいや、あれはparamount、こちらはどうやら乳製品メーカーのよう。イタリアのパルマと関係あるのかな。それはともかく、タダでこんなコンサートをやってくれるのだから、結構なこと。
パヴァロッティ、この前のシーズン、スカラ座では初挑戦の「ドン・カルロ」でブーイングを浴びたとか、引退近しとかの噂が耳に入り、どんなものかしらと思って出かけたが、このプログラムでは好調。自家薬籠中のレパートリーだし、それを割り引きたうえにスピーカーを通した声だけど、決して悪くはない。彼に優しいニューヨーカーの前、完全リラックスモードの野外コンサートということもあるだろう。
私が、オッと思ったのは、パヴァロッティもさることながら、コンサートホールなら休憩の時間に出演したハーレム少年合唱団。楽しかった。素晴らしい歌と、踊り、リズムが活き活きとしている。Take the "A" train や It don't mean a thing if it ain't got that swing のノリの良さ。そう、セントラルパークでも、ここはハーレム寄り、歩いてでも行ける距離だもの。
後半、ナポレターナの後のアンコールは…
マスネ「ウェルテル」から「春風よ、なせ私を目覚めさせるのか」
プッチーニ「トスカ」から「妙なる調和」、「星は光りぬ」
ディ・カプア「オ・ソーレ・ミオ」
最後の最後は、そう、これしかない。
プッチーニ「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」
夜も更けたセントラルパークにパヴァロッティのNessun dorma!が響く。明るいうちからの長丁場で、こちとらかなり疲労気味、そろそろホテルに戻って眠りたいところだが、これを聴くと、そうもならじ。ともかく、長時間にわたり楽しめた野外コンサートとなる。十重二十重の警官隊に護られて、深夜のセントラルパークを後にする。