猛暑日に氷ノ山へ
2018/7/15

ワールドカップもいよいよ決勝戦、超早寝で3時起きなんてしていると身体のリズムは山時間、遠出にはちょうどいい。一週間後に控えた北アルプスに向けた足慣らし、自宅を4時に出る。目指すは氷ノ山、猛暑日が続くなか、名前だけでも暑気払い。連休中日で渋滞知らず、舞鶴自動車道から無料の北近畿自動車道を経て、国道429号、国道29号を乗り継いで鳥取県に入るという算段、中国地方の大水害の範囲からは辛うじて外れている。

他にもルートは考えられるのだが、国道429号を選んだのは神子畑選鉱所跡を観たいと思ったから。先年、明延鉱山跡を訪れたとき、ひと山越えた選鉱場までトンネルで結ぶ鉱石運搬鉄道があったことを知った。それを観るのにちょうどいいコースなのだ。ただ早朝のこと、記念館となった御雇い外国人の旧居は閉まっている。途中の鋳鉄橋や急な山肌の選鉱場の遺構を眺めるだけだが、それで充分。城塞のように屹立する選鉱場は壮観。ここを「鉱石の道」と名付けて地元では観光資源にしているようす。

この先、国道429号に不通区間があった。宍粟市の一宮町から波賀町に抜ける山越え部分、ただここは揖保川に沿って県道を迂回するほうが時間的には早そう。大した影響はない。さすがに400番台の国道から29号若桜街道に入ると整備状態が違う。戸倉峠を越すと鳥取県だ。国道482号に入り氷ノ山を目指す。兵庫県に繋がる予定が県境から先は未開通区間が残る。ともかくここが登山口、氷山命水という小屋が建っている。近くの路肩に車を駐めたら、ここの番人のおじさんが下から登ってくるところ。88歳とのことだが元気な足取り、聞けばこの名水の発見者でここまで引いてきたのだという。持ち帰りの場合は1リットル50円だそうだ。それは帰りに汲むとして、冷たい水に熱中症予防のネックバンドを浸す。日本手拭を首に垂らして上から帽子、そして日焼け止め、格好なんて気にしてられない。9時を過ぎたばかりなのにもう充分に暑い。

大概のガイドブックには兵庫県側の福定親水公園からの周回コースが紹介されている。大阪方面からだとそちらの交通の便はよいが、歩行時間は長くなる。それよりも、鳥取県側の氷ノ越コースが最短で難易度も低い。森の中、小一時間も歩くと県境尾根、ここが氷ノ越、兵庫県側が建てた非難小屋がある。福定から登ってきた人たちは2時間ほど要したとのこと。真夏に1500m程度の山登りは暑さとの闘い、人のことは言えないがご苦労さまなこと。この山は200名山にリストアップされているので、意外なほど登山者が多い。南方にこれから目指す氷ノ山の頂上小屋が見えている。途中のアップダウンがあるので1時間はかかりそう。

だいたいこの辺りの山は雪のある季節に登るのがいい。麓一体はスキー場だらけだ。尾根続きの神鍋山には何度か滑りに来たことがある。日本海からの季節風が強く積雪も相当なものになるから、ゲレンデを離れて山スキーも可能なエリアだ。とか何とか思いつつ、汗ダラダラで尾根道を行く。雲が出てきてカンカン照りでもなくなってきたのがいい傾向だ。しかし、風は弱いのでちっとも涼しくはない。

広い登山道を辿ること1時間あまり。三角点が小屋の前、ほんとうに山頂に避難小屋がある。2階建て、氷ノ越にあったのと全く同じ造りだ。2階部分で宿泊もできるのだろう。コンロを使うので私は中に入ったが、登山者のグループは表でお弁当を広げている。まだ梅雨が明けたばかりなのに山頂部ではアキアカネが群れている。秋の気配が感じられるようになると里に下りるのだろう。

さて下山、往路を戻ってもいいのだが、それもつまらない。山頂の手前に分岐のある仙谷コースを採る。途中は荒れているところもあるので注意ということだが、通行禁止になっているわけでもないので大丈夫だろう。暑いのに長袖、膝にはサポーターまで、頂上の小屋で着けたのは用心のため。と、それが正解、ルートが判りづらい沢身で膝を岩にゴツン、サポーターがなければ衝撃はもっと強い。転ばぬ先の杖、おっと、もちろんストックも使用。

距離的にはショートカットだが、慎重に下ったせいで思いのほか時間がかかった。スキー場に辿り着いてから車道を少し歩く。昼過ぎの焼けた舗装道路はとんでもなく熱い。これは山登りより過酷だ。国道の通行止めの標識が見えたら氷山名水、備え付けのマグカップで立て続けに2杯、身体に染み通るよう、おじさんの言うとおり、確かにこれは美味しい。

さて、ここで大きな問題、さっさと下山したら温泉で汗を流し、そのあとは若桜鉄道の乗りテツと目論んでいたが、どうも両立しそうもない時刻だ。車で郡家まで行き、そこから終点若桜まで戻る。全線の折り返し乗車には、郡家14:39→若桜15:09、若桜15:16→郡家15:46というプランが最適なのだが、風呂に入っていては間に合わないだろう。
 でも、ベトベトの身体では温泉が優先、少し車を走らせると若桜町役場ゆはら温泉ふれあいの湯。町営ということで、町外の人間でも400円という安さ、小さな内湯しかない施設だが、それで充分。受付のおばさんが尋ねる。
「このカード持ってますか。モンベルの会員は半額です」
「ええっ、家に置いてきてしまった、残念。シャンプーの備付けはないとネットで見たので、そっちは持ってきたのに」
「どうぞ、400円分、ゆっくりお入りください」

温泉に浸かったので乗りテツは断念、若桜駅の見学だけとなる。念のため、駅の切符売り場で尋ねてみる。
「次の15:16の列車で郡家まで行っても、戻って来る列車はすぐにないですよね」
「戻りの列車まではだいぶ時間が空きますね」
「隣の駅まで乗って、歩いて戻るとしたら何キロぐらいですかね」
「丹比までは6キロほどあります」
 こりゃダメだ。6キロも炎天下に歩いたら熱中症で倒れてしまう。仕方なく構内見学用の入場券を購入、首から見学者証をぶら下げる。しかし、地元の人間でもないのに、すらっと「こうげ」なんて駅名を口にするテツに驚きもしない駅員のお兄ちゃん、ここはテッちゃんのスポットであることが知れる。

ホームから構内見学通路をC12のほうに向かう。転車台がなんともテツごころをくすぐる。以前の職場の同僚で体験運転をした女性がいたが、それがこの蒸気機関車か。ううっ、やってみたい。ローカル線の終着駅、旧国鉄若桜線、因美線直通で鳥取まで1時間足らずで運行されているから、それなりの需要があり廃止を免れたのだろう。列車でここまで来るのは大変だが、今は無料の鳥取自動車道が利用できる。若桜鉄道あるいは若桜駅、さらにはSL目当てに訪れるテッちゃんの姿は絶えないようだ。

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