瓶ヶ森林道ハシゴ登山 〜 伊予富士・瓶ヶ森・石鎚山
2018/11/2-4

四国に渡り朝一番にレンタカーを借りるには岡山で前泊が適当だ。それなら、いつも列車の乗り換えだけで素通りする岡山、市内観光もと余裕の日程。昼前に着いたので早速腹ごしらえ、ホテルのフロントで訊いたら、香川に近くても岡山のうどんはお勧めできないというので、小豆島ラーメンにした。醤ラーメンというから魚類のスープ、こってりとした感じの見かけほどには味は濃くない。同じ香川県でも小豆島はうどんではなく素麺文化、そこのラーメンというのもヘンだけど。

市内電車で城下まで。定番の後楽園に。まず13:00からの延養亭の特別観覧に申込む。定員15名だけど、平日というのはこういうところがいい。岡山藩二代藩主池田綱政の位置に座布団、ここに座ると殿様の眺めということに。障子を開けると伸びやかに広がる緑と借景の山並み、街中とは思えないのんびり情緒、まったり気分。贅を尽くした感じはなく質実剛健という印象だ。那岐山の帰りに立ち寄った閑谷学校のほうが少し早い時期の建築のようで、人材育成優先ということか。表向きのことはともかく、どちらも防衛上の役割もあったようだ。

のんびり庭園で過ごしたあとは隣の岡山城へ、お決まりのコース。ボランティアガイドのオジサン同伴で回る。最近はどこでも詳しく説明してもらえるので有り難いことだ。

ずいぶん歩いたのでお腹も空いた。やはり晩飯は瀬戸内の魚だろう。評判の店から適当に選んだ居酒屋黒ひげが大正解、開店前に電話を入れておいてよかった。予約なしで訪れた客はみんなお断りになっていたのだから。ここの大将の仕切りぶりが凄い。客に対しては押しつけがましくなく、調理をしながら客席への目配りに怠りない。的確な指示に従業員の動きが機敏、これは絶頂期の店のありさま。お任せの三品コースがお薦めということで、刺身の盛り合わせ、蟹、鰆のたたきが出てきた。どれも素晴らしく美味しいが、何と言っても鰆が絶品。岡山では鰆をよく食べるとは聞いていたが、この旨さは何だ。お酒がすすんでしまって困る。お任せにはなかった飯借りを頼んで終了。明日は山岳ドライブ、深酒は禁物。

山登りの前に食べてばかり。桃太郎ネットワークというマークが付いた快速マリンライナーで四国入り。坂出駅前でレンタカーを借りると、カーナビには有名うどん店がずらりと登録されている。なかに日曜の多客時は店を閉めるというヘンな店がある。今日は土曜、朝からやっているらしいので列車でサンドイッチを食べた後だけど、これは行ってみる価値がありそうだ。国道から狭い脇道にそれて田圃の中、普通の民家のような小さな店なのに駐車場がやたらに広い。日曜に営業したら交通渋滞を引き起こすということなんだろう。開店時間には早くも長蛇の列、10席もない店内、何人もが駐車場脇のベンチやテーブルで食べている。うどん一玉150円、トッピングが100円で、都合250円のきつねうどんにする。つゆは大鍋から自分でかける。大阪で食べる讃岐うどんと違いそれほど腰が強くない。大きな揚げの味付けがやさしい。これは美味しい。あれだけ並ぶのはわかる。

週間予報でこの週末には帯状高気圧に覆われることが見込まれていた。そして、そのとおりの気圧配置となる。悪天になりそうだったら急遽うどんツアーに変更して足摺岬あたりまで足を伸ばすという代替案は雲散霧消。いざ、山へ。白石ロッジの予約で電話したとき、上のほうの紅葉は終わり麓に下りているとのことで、西条から高知に向かう国道194号線沿いがちょうどその時期のようだ。1500m付近は降雪もある時期だというが、この天気ならその心配はない。

新寒風山トンネルを抜けて高知県側に出たところから九十九折の林道を登る。旧道の寒風山トンネルはずいぶん高いところにある。そこから瓶ヶ森林道の全線27kmを走る。その途中で車を駐め、伊予富士と瓶ヶ森に登るというプラン、ケーキのトッピングだけつまみ食いするようなものか。

先ずは伊予富士、どちらから見ても富士という姿ではない。南東側からは複数のピークが連なっているし、林道の登山口から行くとなだらかな稜線だ。山頂南側の水場からいったん西に稜線に出て、東に折り返す。直登すれば近そうだがかなり急だし踏み跡もはっきりしない。迂回コースでも45分、眺めのいい山頂に達する。私のようにお手軽登頂コースだけでなく、寒風山方面から登ってきた人もいて頂上は賑わっている。

午後になると雲が湧いてくる。高知側の視界は広がるが愛媛側は雲の中、ここは四国の脊梁山脈だからそうなる。林道は稜線の南側を巻く。なんでこの道を拓いたのだろう。林業用という感じはしないから観光用なのか。だいたいが1.5車線という幅員なので対向に気を遣う。晩に白石ロッジで聞いたことには、トヨタのCFでここの走行シーンを撮ったらしい。もちろん林道は一時閉鎖、こんな道で対向車がいてスピードを出したらとんでもないことになる。そのCFの影響なのか、天空の道をドライブ目的の車も見受けられる。困るのは林道の走り方を心得ていないドライバーもいること、対向車の接近を見越して待避可能な場所に停車していると後ろから追い抜いていくSUV、案の定、カーブの先でドツボにはまっている。稜線が紅葉最盛期の頃は大変だったかも。

次は瓶ヶ森、こちらも林道の駐車場から30分もあれば山頂の一角、男山に到着する。最高点はその先の女山、1897m。一面の笹原、雲がなければ石鎚山が望めるはずだが、山頂部の一角が覗いているだけ。明日のお楽しみだ。戻りは中腹の巻き道を行く。途中に瓶壺という道標があった。後で知ったのは湧き水が流れ込む小さな池のこと、寄ってみたらよかったなあ。

この日の宿は瓶ヶ森林道終点の土小屋にある白石ロッジ、ちょっと古い建物だけど、炬燵もある個室、トイレは室外だが、風呂に入れるのもいい。1泊2食で8000円という価格は北アルプスの山小屋と比べたら格安の水準。宿の主人の白石さんも親切だ。食事のときにビデオを流し石鎚山登山の説明をしてくれるのが、お客に対する距離感に節度があっていい。明日も高気圧に覆われるはず。

明けて快晴、ロッジの玄関は石鎚山が真正面だ。朝食を中断して表に出る。秋の雲が赤く染まり、その色が褪せると山肌が薔薇色に輝く。時間にしてわずか5分ほどのショーに見とれてしまう。

土小屋の標高は1492m、伊予国とは冗談みたいだ。ここからの登山道は長い巻き道で緩やかに高度を上げ、最後に急角度の鎖場で一気に山頂に達するという面白い道の付け方だ。はじめの2時間足らずは山頂まで標高差が500mもあるとは思えないほど緩い登りなのに。北側の成就からの登山道と合流するのが、二の鎖の基部、見ていると、ほとんどの登山者は巻き道のほうに向かう。確かにここの鎖場は半端なく急だし長い。一つひとつの鎖が重くて大きい。 基本は岩場に足を置いて手を鎖に添えるぐらいで登れるが、ときどき鎖頼りになる場面がある。そんな箇所には三角形の鐙が取り付けられているが、輪っかに足先を入れる箇所もある。いささか不安定になるので怖い。そして最後の三の鎖、ここで失敗をやらかしてしまった。リュックのサイドに入れていた500mlのペットボトルを落下させてしまったのだ。岩壁にバウンドしながら消えて行った。軽いものだからよかったものの、危険極まりない。長いこと山登りをしているのに恥ずかしいことだ。急斜面ではサイドポケットに物など入れてはいけない。とんだヒヤリ体験となったが、それがなくても宙に浮くような箇所もありスリリングだ。この鎖の連続は槍ヶ岳の穂先の登攀より難易度が高い。それでみんな巻き道ということか。

鎖が終わった途端、もうそこは山頂、大勢の人がくつろいでいる。目と鼻の先、スパッと切れ落ちた岩壁の上の最高峰、1982mの天狗岳までは15分ほど。岩稜歩きは乾いているので鎖場よりずっと楽だ。岩にへばり付きながら子供もやって来る。耳慣れない言葉なので、Where are you from?と尋ねるとPhillipinesという答が返ってきた。ここは日本百名山、いろんなところからやって来ている。

双眼鏡も持ってきたので、山頂の案内板を見ながら同定する。瓶ヶ森や伊予富士は近いし、登ってきたから簡単だ。遠いところでは東の剣山、西は海を越えて久住山系も確認できる。北は燧灘、南は土佐湾、さすがに西日本最高峰だけのことはある。もちろん下りは巻き道づたい。二の鎖基部の分岐で、土小屋に戻るはずが人の後ろについて成就のほうに下ってしまうケースが年間30人程度に及ぶと、ロッジの白石さんが言っていた。なんで間違うのか、ちょっと信じられない。帰りの団体バスの乗客がいつの間にか一人増えていたなんて剛の者もいたそうだ。道迷いもそこまで徹底すれば凄い。

石鎚山から眺める瓶ヶ森はけっこう高度感がある。頂上部分の笹原歩きしかしていないので、印象がだいぶ違う。午後になって雲も出てきた。振り返れば石鎚山もガスの向こうのシルエットになっている。再び27kmの瓶ヶ森林道を行く。麓に下りたら温泉だ。

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