矢野玲子/大阪センチュリーのショスタコーヴィチ ~ なるほど!聴衆賞
2008/7/31

矢野玲子(りょうこ)というヴァイオリニスト、全然知らなかった人だが、いやあ、びっくりした。上手な人は一杯いるけど、この人は他の人にはないものを持っている。後でプログラムを見たら、いろんなコンクールで入賞しているようだが、異色なのは、その中に「聴衆賞」というのが二つあること。なるほど。そう、素人も、スレた聴き手をも、ライブでぐっと惹き付けるものがある。

折しもこの夜はプロ野球オールスター戦、例えは悪いが、コンクール優勝というのはジュニア・オールスター戦でMVPを獲ったようなもの。そこから一軍に上がってレギュラーになる選手もいれば、いつの間にか消えてしまう選手もいる。聴くところ、この人はなんだか大化けしそうな気配。

ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調作品77
 チャイコフスキー:交響曲第3番ニ長調作品29「ポーランド」
   小泉和裕(指揮) 大阪センチュリー交響楽団
   矢野玲子(ヴァイオリン)

ショスタコーヴィチの協奏曲は4つの曲の寄せ集めみたいなところがあり、それはそれで各楽章の個性を聴く楽しみがあるのだが、一方で散漫な印象も与える作品だろう。
 ところが、この日の矢野さんの演奏、楽章が進むにつれて、どんどん引き込まれて行く。第一楽章、「なかなかいいんじゃない」程度の印象だったのが、快速の第二楽章、彼女がみるみるノッていくのがはっきり。オーケストラもそれに触発されたかのような絶妙の掛け合い。普段、休憩前のコンチェルトは眠くなることが多いのに、こちらもデンと腰掛けていたのが、だんだん前のめりに、第三楽章の終わりの長大なカデンツァなんて、3階バルコニーの手すりに乗り出してオペラグラスで覗きこむ。それに続く終楽章が終わった時には、間髪入れず歓声が客席から。その気持ち、よく判る。私も、楽章の切れ目で思わず拍手したくなって、でも定期演奏会でもあるし、ぐっとこらえたのだから。指揮の小泉氏、ソリストへの拍手が続き過ぎるので、ちょっとむくれたのか、最後はそれとなくコンサートマスターに引きあげを促したほどだ。

この人、面白いのは、ソロのお休みのときも、首を振って拍子を取るだけでなく、オーケストラパートのメロディを口ずさんでいる。曲が進むにしたがい、その仕草が顕著に現れる。無意識のうちにという感じ。ソロパートに専心して取り澄ました様子など微塵もない。コンチェルトで、弾いていないときにも、音楽にどっぷり浸かっているソリストを見たのはファジル・サイ以来だなあ。この人が弾くなら、是非また聴きに行きたい。

そんなことで、ショスタコーヴィチで帰っても十二分に元が取れたコンサートだった。後半のチャイコフスキー、演奏会のプログラムに載ることは珍しい演目だし、私は初期の三つのシンフォニーは好きなこともあり、期待して聴いたわりには、「ぼちぼちでんな」というところ。

五つの楽章で、半ば以降はまずまず楽しめたのだが、前半の二つの楽章が今ひとつ。パートのバランス、テンポの変化がギクシャクとしたもので、音楽が自然に流れないもどかしさ。こういう曲は料理の仕方次第で、ずいぶん面白く聴かせることができると思うのだけど、そこまでには至らなかった。尻上がりにまとまってきたので、ちょっと残念。

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