ヘンデル「トロメーオ」(日本初演) ~ 石の上にも5年、VOCも世代交代
2008/9/20

予定になかった金曜日の大阪フィル定期演奏会に行ったので、3日連続になってしまった劇場通い。この日は伊丹アイフォニックホール。

ヘンデルの日本初演シリーズ、もう5作目になるのか。財政難から継続が危ぶまれたのは2年前のこと。窮状を見かねたファンの寄付も集まって、何とか昨年の「イメネーオ」に続いて「トロメーオ」の上演となった。喜ばしいことには、既に来年の「オルランド」の日程まで決まっているようだ。

首都圏から駆けつける顔なじみの姿も、もう恒例のようになった。500人も入らないホールはほぼ満席。このヘンデルシリーズ、私は皆勤賞だが、毎回足を運んでいる人の割合がかなり高いように思う。チケットが購入できる会員になるまで何年もかかるなんてことが起きないとは断言できない。ま、そのときは800人規模の会場に移ればいいか。

塚口で乗り換えた阪急伊丹線の電車の中、女子大生風の二人連れ、このチラシを眺めて話している。裏面にはあらすじが書かれているのだが、「うち、これ、なんぼ読んでも分かれへん。あったま、どないかなっとう」と、神戸のイントネーションで。
「いやあ、おっちゃんかて、わからへんで。せやけど、観たら何とかなるんとちゃうか」と河内弁で話しかけたいところ、でも、それじゃ怪しいオヤジ、ここはぐっと我慢。

トロメーオ:永木るり子
 セレウチェ:木村直未
 アラスペ:迎 肇聡
 エリーザ:端山梨奈
 アレッサンドロ:山田愛子
 指揮・演出・制作:大森地塩
 バロックアンサンブルVOC

母クレオパトラに疎まれキプロスに去った長男トロメーオ、妻のセレウチェも弟のアレッサンドロも何故かキプロスに。キプロス王アラスベと妹のエリーザが絡んで三角関係、四角関係のドラマが進む、別名を名乗って身分を隠したりするものだから、いっそう訳が判らなくなるバロックオペラによくあるパターン。

今回の演目の「トロメーオ」、そういう関係のややこしさ、台本の適当さもあり、全三幕、やや冗長なところもあるが、第二幕以降は随分よくなってきて、楽しめた。正直なところ、代わる代わる出てきては一曲という第一幕を聴く限り、この調子じゃ今回はちょっときびしいなあという印象だった。

これまで、VOCのヘンデルで素晴らしい歌唱を聴かせてくれた津山和代さんも谷村由美子さんも今回は出演しないので、柱になる人が不在ではないかと心配だった。しかし、それは杞憂、新しい人が出てきた。エリーザ役の端山莉奈さんという若いソプラノ。声、テクニック、演技、いずれも立派なもので、間違いなくこの公演の中心にいた。愛と憎しみ、嫉妬、登場人物のうちで最も複雑な心理表現が必要な役だが、充分に満たしていたのではないかと。彼女に対峙するもう一人のソプラノ、木村直未さんは昨年に続いての登場、コロラトゥーラで声質的にも端山さんとのコントラストもちょうどいい。

さて、題名役のトロメーオを歌った永木るり子さんは、確か三年連続の出演のはず。長身、ズボン役として舞台映えがするし、最初のときに比べると歌にも演技にも随分ゆとりが出て来たし、自信がついた感じがする。美声で、きっちり歌っているのも判る。ただ、ひとつ注文が。それはイタリア語の口跡の改善だ。彼女ひとりに違和感がある。レチタティーヴォのイタリア語のリズム、シャープさが感じられない。アリアにも同様の傾向が。イタリア語は最も歌に近い言語だと思うが、彼女の場合は言葉がメロディとリズムを得て羽ばたくのではなく、音符に言葉を載せているような印象がつきまとう。言葉からのアプローチも望みたいところだ。

びわ湖ホールでお馴染みの迎さんは、このホールで聴くと相当な大音声、出番も少なく今ひとつの役柄だけにちょっと気の毒な感じも。

二年前の窮状アピールのことがあるので、最後に主宰の大森さんが舞台に立ったので、「ん…」と思ったが、もともと今年の演目の候補に挙がっていた「オルランド」を、来年上演出来る目処が立ったという報告と感謝の挨拶だった。よかった、よかった。また来年。

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