エディタ・グルベローヴァ@シンフォニーホール ~ 長期滞在の締めくくり
2008/11/23

昨年の来日時は、モーツァルト、シューベルト、ブラームスの歌曲が中心で、当然にピアノ伴奏、でも、やはりこの人はオーケストラをバックにオペラアリアを聴きたい。先月末に東京まで出かけた「ロベルト・デヴェリュー」からほぼひと月、しっかりインターバルをとっての長期滞在、この大阪、シンフォニーホールが最終のコンサートになるのかな。今がシーズンの紅葉狩りならぬバーゲンハントの戦果をロッカーに収容して3階へ。

公演のチラシ

ABCDの4ランクのチケット、見事にAの末席とBが売れ残り、中抜き状態。両サイドのバルコニーと一階席だけが埋まるという奇妙なザ・シンフォニーホールの客席風景だ。最近は評判の悪い座席移動摘発も止めたのか、休憩後にはかなり分散した模様。舞台奥の座席は売っていないので、それを計算から除外すると6割そこそこの入りか。

ソプラノ:エディタ・グルベローヴァ
 指揮:ラルフ・ヴァイケルト
 管弦楽:東京交響楽団

 モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」~序曲
 モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」~あの人でなしは私をあざむき
 モーツァルト「皇帝ティトゥスの慈悲」~序曲
 モーツァルト「イドメネオ」~この心の中に感じるものすべては
 モーツァルト「イドメネオ」~バレエ音楽
 モーツァルト「イドメネオ」~オレステとアイアスの苦しみを
      * * *
 ドニゼッティ「シャモニーのリンダ」~この心の光
 ロッシーニ「ウィリアム・テル」~序曲
 ドニゼッティ「ルクレツィア・ボルジア」~安らかに眠っている…なんと美しい
 ベッリーニ「ノルマ」~序曲
 ベッリーニ「海賊」~ その汚れない微笑みと
      * * *
 バーンスタイン「キャンディード」~着飾ってきらびやかに
 シュトラウス「こうもり」~侯爵様,あなたのような方は

客席の入りは関係ない。この人の場合、(私も含め)絶対外さないというファンは必ず来る。2時間のコンサートが終わってみれば、いつものように熱狂的なスタンディング・オベイション、満席のコンサートでもこうはいかない。

「ドン・ジョヴァンニ」の序曲が終わって登場したディーヴァは白いドレス、ドンナ・エルヴィーラのアリア、ちょっと不安定。東京の「ロベルト・デヴェリュー」初日と同じだ。綺麗に一定に音が伸びないのだ。喉の温まらないうちの第一曲で全く同じ現象が起きるというのは、グルベローヴァも生身の人間ということか。歳のせいだとは思いたくないけど、文字どおりの完璧な歌をこれまで聴いてきただけに、少し寂しさも。

「皇帝ティトゥスの慈悲」序曲で一息ついて、「イドメネオ」のエレットラのアリアとなる。ここで本調子になってきて、バレエ音楽を挟んだ二つ目のアリアとなるともうパワー全開モード。このアリアは、これまでに彼女の歌で聴いたことがなかっただけに、ちょっと驚きの大迫力だ。

後半、赤いドレスにお色直し、「シャモニーのリンダ」は当たり役だし、間然するところない最高の出来。デリケートさと、衰えを感じさせない声の威力、歌い終わった瞬間に爆発的な歓声と拍手。ここで完全に舞台と客席が一体化。いつもの雰囲気になる。

「ルクレツィア・ボルジア」のアリア、なんだか音程がフラットする箇所があったような気がするが、気のせいかな。これは実際の舞台を観たことのないオペラ、グルベローヴァは舞台で最近歌っているようだけど、観たいものだ。

ドニゼッティがすんだら次はベッリーニ、「ノルマ」の序曲に続いて、「海賊」のイモージェネの狂乱の場、こちらも今後観ることが出来るかどうか怪しいオペラだが、天国的な美しさではあるにしても、表現的にはやや弛緩した感じもある。もっとも私の集中力が緩んできたせいもあるが。

全プログラムが終わり、何度も舞台と袖の往復の後、お待ちかねアンコール。3階バルコニーから譜面台に開かれた楽譜の"Glitter and be gay"のタイトルが見えていたので、「ほう、これをやるのか、珍しいなあ」と期待。英語の切れ味は今ひとつの感があるが、ここまでスケールの大きいクネゴンデのアリアはちょっと聴いたことがない。もっとミュージカル風に小回りをきかせた歌でも可能なナンバーだけど、グルベローヴァがやると、ここまで凄いものになるとはねえ。緩急、強弱、軽重、まさに自由自在という感じ。故バーンスタインが聴いたらびっくりでは。

最後は昨年のコンサートと同じくアデーレのアリア。彼女も相当に乗ってきて達者な演技、表情の振幅が前回とは比べものにならないぐらい大きくなる。指揮者に絡んだり、次はコンサートミストレスにも。リラックスモードのせいもあるが、自由闊達を絵に描いたよう。

幕間に、大阪のツェルビネッタ、日紫喜恵美さんの姿をホワイエで見かけたが、彼女、どう聴いたんだろうかな。ちゃかり正面席に移動していた友人に後で聞いたところによれば、後半、隣に彼女が来たそうな。私自身は係員との押し問答など不愉快な思いをしたくないので移動は控えたので残念なことをした。彼女に感想を聞いてみたかった。グルベローヴァの歳に比べるのは失礼の極み、まだまだ頑張ってほしいものだ。

最後に、ラルフ・ヴァイケルト指揮の東京交響楽団、これは、"オペラアリアの饗宴"の場繋ぎの演奏というものではない。「ロベルト・デヴェリュー」のときのウィーン国立歌劇場のオーケストラに勝る。大阪日帰りの強行軍かと思うが、上手いし、演奏ぶりが真摯。新国立劇場のピットや、定期演奏会での意欲的なオペラへの取組がオーケストラにしっかり蓄積されていることが判る。プログラムの半分近くを占めるオーケストラピースがしっかりしていたから、グルベローヴァの登場を待ちわびるといううことにはならず、ヴォーカルのみならずインストルメンタルも含め連続性が感じられるコンサートとなった。これまでなら、ハイダー氏のタクトということだろうが、幸か不幸か、聴く側にとっては熟練の人が指揮台に立って音楽も生気を帯びたと感じられる。

私にとっては、舞台上の姿をあまり観ることのないオーケストラ、眺めていると男性奏者は燕尾服に臙脂の腹巻、じゃなかったカマーバンド、どうも制服のようで、みんな同じ色。黒と白じゃつまらないから、鮮やかな色彩が入るのはとてもいい。もっと派手でもいいぐらい。だったら、女性奏者の衣装にも一工夫ほしい。自前なのか、黒あり、紺あり、デザインもまちまち。男がピシッと統一しているなら、女も全員同じ衣装である必要はないにしても、オーケストラ全体を格好良くコーディネートしてほしいもの。

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