沼尻竜典/大阪センチュリーのフランスプロ ~ 思わぬ掘り出しもの
2008/11/27

向こう2か月分のチケットは手帳に挟んでいるので問題はなかっけど、職場に着くまで、夜はコンサートということを忘れていた。前売りは買ったものの、珍しいプログラムということだけで、期待が大きかった訳ではない。それが、デュティユーのチェロ・コンチェルトと、ドビュッシーのカンタータが、とっても良くて…思わぬ掘り出しものとなる。

ラヴェル:優雅で感傷的な円舞曲
 デュティユー:チェロ協奏曲「はるかなる遠い国へ」
 ドビュッシー:カンタータ「放蕩息子」
 タチアナ・ヴァシリエヴァ(チェロ)
 浜田理恵(ソプラノ)
 吉田浩之(テノール)
 河野克典(バリトン)
 沼尻竜典(指揮)
 大阪センチュリー交響楽団

いかにも沼尻さんらしいという曲目、あまり人のやらないものをやる。3曲並んだなかでラヴェルだけが、聴いたことがあるかも知れないという程度。

隣に座った友人に言わせると、「ラヴェルはスカ!」ということだったが、つまらなくて後半は寝ていたので、私はそこまで言い切ることは出来ず。第1曲を聴いて「粗野で脳天気な円舞曲」という感じだったので、タイトルはラヴェル流の韜晦かしらんと思ったなあ。

公演前の沼尻さんのプレトークをちょっと聞いたのだが、「これだけソリストが登場するのは贅沢ですが、あの騒ぎの前に企画していたもので…」というようなことを言っていた。でも、しゃべりの間が大阪的じゃないのがいかん。絶対に笑いを取れるところなのに。惜しいなあ。

それで、コンチェルト。続いて演奏される5つの楽章、ぼーっと聴いていても一応切れ目は判るのだが、主題も関係しているようで、イメージ的には単一楽章のような感もある。そして、きっと、わざとなんだろう。チェロの最も美しく響く音域を排除して、高低に分離したような曲作り。それでいて、オーケストラに決して埋もれないように書いているのは凄いと思った。

双眼鏡を忘れたので、ヴァシリエヴァという、(たぶん妙齢の)チェリストの表情は確認できなかったが、音のパワーはないものの、チェロにとっては奇妙なコンチェルトを熱演。

休憩後はドビュッシー、「ペレアスとメリザンド」のように、終始クラデーションのかかったような音楽を想像していたら、とんでもない。若い日の出世作らしく、独伊のオペラの折衷のような感じすらあり、輪郭がくっきり。これが件のオペラの作曲家の手になるものかと耳を疑うほど。判りやすい。独唱部とオーケストラの関係はイタリアオペラのようにシンプルだし、クライマックスのアンサンブルは、コンチェルターテ・フィナーレか、はたまたワーグナーの亜流のよう。

登場場面が多い浜田理恵さんが素晴らしい出来、バリトンの河野さんも好調。ただ、テノールの吉田さんはスタイルが異質で、あまり感心しなかった。つまり、声を張るところの輝きと、それ以外のところの埋没との落差が大きく、音楽のラインがギクシャクする。フランス語の響きとは異質で、浜田さんの滑らかさと対照的。とは言え、ソプラノが中心なので、まあ許せるかな。

これは、放蕩息子の帰還を両親が受け容れるというお話だが、待ちわびた母親はそうだとしても、父親まであっさりと赦すというのではドラマにならないなあ。ここは、「父帰る」の(逆の)ように男親としての葛藤がないと。起承転結の「転」の部分がなく終わってしまうと、なんだか拍子抜けする。まあ、オペラじゃなくてカンタータということだから、これでもいいのか。

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