藤原歌劇団「ボエーム」@テアトロ・ジーリオ・ショウワ ~ 傑作ゆえの…
2008/11/30

小田急新百合ヶ丘駅前に出来たオペラハウス、テアトロ・ジーリオ・ショウワには一度行かなくてはと思っていたら、うまい具合に土曜日の仕事で出張、ソワレならその晩にということになるが、あいにくのマチネ、ほんとうは土曜日のほうを観たかったのだけど、日曜日のマチネに。

音楽大学併設のオペラハウスということでは、豊中のカレッジオペラハウスが先駆だが、そんな感じだろうと思って行ったら、さすが花のお江戸、じゃなかった川崎か、とても立派な歌劇場。1200人以上も入るというから、チューリッヒのオペラハウスより大きいぐらい。でもピットはちょっと小さめかな。

ミミ:野田ヒロ子
 ロドルフォ:市原多朗
 マルチェッロ:谷友博
 ムゼッタ:佐藤美枝子
 ショナール:柴山昌宣
 コッリーネ:久保田真澄
 べノア:折江忠道
 アルチンドロ:柿沼伸美
 パルピニョール:望月光貴
 合唱:藤原歌劇団合唱部
 児童合唱:多摩ファミリーシンガーズ
 指揮:松下京介
 管弦楽:東京ユニバーサルフィルハーモニー管弦楽団
 演出:岩田達宗

もう、野球シーズンも終わったけど、例えて言えば、バットの芯で捉え快音を残したはいいが、急速に打球は減速、外野手の頭を越えることもなく、ポップフライで終わったような印象だった。

何より演出がひどい。これが、才人、岩田達宗の手になるものかと呆れる。カーテンコールには演出家本人の姿はなかったが、再演のプロダクションだから、手直しはいくらでも出来そうなものを。最初に舞台にかかったのを観ていないので、差異は不明。しかし、今どき20年ほど時計を逆戻りさせたような舞台を見せられるのは、あんまりだ。

何より人物の動かし方が無茶苦茶、どうして初対面のはずのミミとロドルフォ、わずか10分あまりで恋に落ちるのに、それぞれのアリアで明後日の方向に離れていてどうする。ニューイヤー・オペラコンサートで順繰りに歌っているのではない。まさか、それまでの電子メールのやりとりで、充分に機運が盛り上がっていたとでも言うのだろうか。あほらし。

カルチェ・ラタンの場面の幕切れも噴飯もの。軍楽隊を省略したのは問題ないにしても、突如ドドッと雪が落ちて、二階建ての舞台の上でアルチンドロに給仕が駆け寄り請求書が渡されるのも訳が分からない。とにかく、人の動きが不自然で、かといって何かの意味を込めているでもなく、困ったものだ。

何度も舞台に接し、聴き込んでいるオペラだから、評価も厳しくなる傾向があるのは自覚している。歌の水準も、こちらがAキャストだから、悪いということはないにしても、満足感からはほど遠い。仮にAB同じレベルであっても、こちらのキャストの人たちには伸びしろが感じられないのが寂しい。

ミミの野田ヒロ子さん、終幕のヒロインとして視覚的にもぴったりするというのは褒め言葉かどうか怪しいが、第一幕では花がないといけないし、第三幕ではパセティックな情感のほとばしりがないといけない。どうも満足度としては今ひとつ。私の要求水準が高いこともあるけど。

ロドルフォの市原多朗さん、押しも押されもせぬベテラン、レチタティーヴォでのイタリア語の口跡の美しさは、他に並ぶものがないと思う反面、聴かせどころのアリアでの持続力が衰え、サビの部分での声が濁るのは致命的。ここまで持ちこたえないとイタリアオペラの興奮には至らない。

マルチェッロの谷友博さん、とてもいいバリトンだと思っていたのだが、あまり進化が感じられない。五十嵐喜芳監督時代には新国立劇場の主役にも抜擢されたこともあるのに、久しぶりに聴いても以前と変わらない。声の力はあるのに、力づくに走り、ベルカントから逸脱する悪癖は消えていない。残念だなあ。

ムゼッタの佐藤美枝子さんは、少なくとも舞台の上ではミスキャストではないだろうか。配役表もロクに見ていなかったので、第二幕が終わるまで彼女だとは気づかず。それほど、いつものレベルと比較すると低調。声域、声質の問題ではなく、舞台上のキャラクターとして合わない。私は好きな歌い手なのに。

松下京介という若い指揮者が率いる東京ユニバーサルフィルハーモニー管弦楽団、各幕の初めはとてもいい感じでスタートするのに、それ以降、オペラを推進していくという力には欠ける。これも、芯で捉えても打球が伸びないもどかしさ。

せっかくお金をかけたプロダクションだから、再演は結構なこと。それを、都心を離れたホームグラウンドでやるのも結構。ただ、聴く側とすれば、これからのキャストの公演を観るべきだなあという気がした「ラ・ボエーム」だった。

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