ボローニャ歌劇場来日公演「清教徒」 ~ 季節外れの満開!?
2011/9/11

日曜日、仲秋の名月の頃だというのに、ここは季節外れの満開か。主催者が招待券をばらまいて空席を埋めるのは身銭を切った人間としては腹も立つが、ある程度は必要悪と目をつぶってもいいだろう。でも、ここまでやったら、それは禁じ手ではないかしら。証拠が出てくることはないだろうし、真相は藪の中ということは目に見えているが、私の心証は限りなく黒に近い。相当数のサクラが客席に配されていたのではないかと推測してしまう。まるで、「異議なし!」と株主総会で連呼する社員株主か与党総会屋のよう。主催が主催なので、先日の韓流騒動に連想が行く。
 演奏、歌唱の出来不出来と全くシンクロしない拍手喝采、こういうのはついぞ経験したことがない。はじめは自分の耳がおかしいのかとさえ思った。しかし、幕が進むにつれて、芽生えた疑念がどんどん膨らむ。

遠来、こんなときに来てくれて、精一杯歌ってくれた人たちへのねぎらいなら判るし、来なかった人へのブーイングなどする気もないが、演奏内容なんてお構いなしの歓声は度を超している。カーテンコールは指笛もあちこちから聞こえる大騒ぎ、これは悪い冗談のようだ。

セルソ・アルベロ(アルトゥーロ)
 デジレ・ランカトーレ(エルヴィーラ)
 ルカ・サルシ(リッカルド)
 ニコラ・ウリヴィエーリ(ジョルジョ)
 指揮:ミケーレ・マリオッティ
 管弦楽・合唱:ボローニャ歌劇場管弦楽団・合唱団

セルソ・アルベロとデジレ・ランカトーレのコンビは、2007年のスロヴェニア国立マリボール歌劇場来日公演「ラクメ」の再現、両人ともあのときの状態は万全と言えなかっただけに、4年後の姿はどうだろうという期待もあった。

ボローニャではフローレスとのダブルキャストだったというアルベロは、ずいぶん安定感が増したように思う。4年前は、高い音は出るが、それで一発勝負のようなところもあり、歌全体としての感銘度は低いという印象だった。今回、その印象はだいぶ薄らいだし、第1幕第3場のアリアからアンサンブルに至る歌は見事、ここでの胸声の高音も見事に決まり、おおっ、という感じ。ところが終幕では、一発高音が浮いてしまって歌の一部になっていないありさま、最初がよかっただけに、この落差はちょっと。

ランカトーレは相変わらず。少しは目立たなくなったが、響きが随所でストンと落ちるという致命的な欠陥は治っていない。高音があれだけ綺麗に出るのに、どうして。この問題があるので彼女の歌は安心して聴けない。オシロスコープにかけたらどうなるんだろう。極端に響きが落ちてしまわないまでも、安定しないところが目立つのは、倍音成分のムラがあるのかも知れない。

第1幕第3場が最高の出来で、第2幕の狂乱の場はランカトーレの欠点を気にしなければ、光彩陸離たるカデンツァも含めて高音領域に行くほどいい。その前の第1幕第2場が酷い音だっただけに、あれでかえって喉が暖まったのかも。この人がこれだけ音響面の問題を抱えていながら檜舞台に立てるというのは不思議だ。偏に高音の美しさに負うということだろう。メジャーリーグにだって、長打力を買って守備には目をつぶるという野球選手が珍しくないし、それと同じなのかも。それを良しとするか否か、好きか嫌いかは個々人の価値観だから、とやかく言うことではないにせよ、私の美意識には合っていない。4年経っても同じということは、彼女はこれからもそうなんだろうか、打率が下降線を辿れば守りの拙さがクローズアップされ見放される。そのときに備えた対応をする時間はあまりないと思う。アルベロには上昇ベクトルがあるが、ランカトーレはちょっと微妙じゃないかな。あれさえなければ、という人だから、しっかりと現状を見つめ直してほしいものだ。

ソプラノとテノールのことだけになってしまったが、男声低声部の人たちの歌は力ずくの印象が強くて買えない。ベッリーニの音楽を殺しているように聞こえる。こんな風に書き連ねるとボロボロの公演のようにも見えるが、前述の第1幕第3場のような素晴らしい場面もあった。ここでのアルベロの好調と、息の長いアンサンブルを支えきるオーケストラのコントロールの見事さは特筆ものである。その前の第2場での性急なドライブには粗い歌唱も相俟ってがっかりしたのが嘘のようだ。そういうところ、マリオッティという人、捉えどころのない指揮者だ。これから大物になるのか、ならないのか、これだけでは何とも言えないなあ。

最近ではちょっとない奇妙なオペラ体験だった。客席の反応に鼻白んでしまって実態よりも印象が悪くなってしまったところがある。これが自然な反応での拍手喝采だったら、自分自身もどんどん盛り上がったと思うだけに残念。いつか間違って買った席が甲子園球場のライトスタンド、目の前の野球そっちのけで勝手に盛り上がっているタイガースファンに囲まれて、ずいぶん居心地の悪い思いをしたのと似ているような。

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