大植英次/大阪フィル定期/「大地の歌」ほか ~ 9年の成果か
2011/11/9

大植監督の任期もあと僅か、定期演奏会は来年2月が最後、今回はそのひとつ前ということになる。2003年5月が最初の定期演奏会だったから丸9年、前任者とは比較にならないが、オーケストラとの結びつきということでは決して短い時間ではないだろう。就任から二、三年の目覚ましいオーケストラの進境ぶりは強く記憶に残っている一方、その後は停滞を感じた時期もあったことは否定できない。信奉者でもなければ親衛隊でもない人間にとって、確かに新しい風を入れる時期でもあると感じる。

奇しくもマーラーが取り上げられる。もちろん没後100年であるにしても、「復活」で始まり「告別」で幕が引かれるというのも何かの含意を感じるところだ。

シューベルト:交響曲第5番変ロ長調
 マーラー:交響曲「大地の歌」
   テノール:ジョン・ヴィラーズ
   メゾソプラノ:小川明子
   指揮:大植英次
   管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団

もう何も感じなくなった来日音楽家の直前キャンセル、ナタリー・シュトゥットマンも放射能怖い病ということだろう。来ないことが早くに判っていても理由が体調不良だと直前に発表するしかないので、オーケストラも事務方も弱ったことだろう。同情を禁じ得ない。それで、払い戻しはないが、特段の騒ぎにもならない。これも9年で培ってきた音楽監督の力と言えなくもない。それにしても、こんな風に言うほうが腑に落ちると思うのだけど。

オルロフスキー公爵役で出演を予定していたアグネス・バルツァと、フランク役で出演を予定していたギュンター・ミッセンハルトは、大震災後の原子力災害による自身の健康への懸念から、現在の日本に滞在することが困難であると決断を下したため出演できなくなりました(新国立劇場の「こうもり」出演者交代のニュースリリース)。

きっとしっかり準備したのだろう、代役の小川さんが素晴らしかった。特に最終楽章の歌は見事だ。第2・第4楽章には注文もあるが、全曲の半分を占める「告別」で完全に挽回どころか、ちょっと聴けないような出来映えである。大阪フィルの演奏も後になるほど良くなってきた。小川さんのディクションがいいので耳に心地よい。もゃっとした音じゃないので大きな管弦楽と混濁しない。第2・第4楽章では、もっと響きのある声、広がりのある深い声のほうが合いそうにも思うので、注文を付けるとするとそこだが、かといって全曲通して聴いた後では、これも小川さんの個性だし、これはこれで悪くないなあと感じてしまう。

第2楽章「秋に寂しき者」では、音符の長さ目一杯に情感を込めて、後半のクライマックスでの絶唱というパターンがありがちなのだが、小川さんは過度の思い入れを排したようなすっきりとした歌になっている。第4楽章「美について」の緩急のコントラストはオーケストラについて行くのが難しいところで、大植さんは相当煽っていたのに落ちることなく歌いきったのは立派。この両楽章はどちらかと言えばオーケストラ主導の感が強かったが、最終楽章は間違いなく小川さんの楽章だった。感傷に走らず交響曲としての完成度を示す演奏と言ったらいいのか、オーケストラのソロ楽器がここでは見事、楽器のバランスもとれていて、長い長い間奏も間然するところがない。全曲中の最高の出来だったと思う。

奇数楽章を歌ったヴィラーズ、巨漢テノールで体格どおりの声が出る。舞台横のバルコニーだと音圧を感じることはないが、正面で聴いたらガンガンというところではないかな。この曲はワーグナーの諸役をこなす人が歌うことが多く、まさにそんな感じ。オーケストラが遠慮なく咆哮しても埋没することはない。三つの楽章は女声のものほどそれぞれのコントラストはないが、ちゃんと歌い分けもされている。いいソリストを呼んできたものだ(未聴だが大植さんとの同曲録音があるらしい)。

実演でこれはというものに当たったことのない「大地の歌」、今回はアタリである。看板のシュトゥットマンが抜けたにもかかわらず、こういう演奏に遭遇できたのは幸運。

前半に演奏されたシューベルトは昔好きだった曲で、久しく聴いていなかったから懐かしい思いがする。第3楽章で疵があったものの、大阪フィルの演奏は悪くない。ただ、マーラーに比べると、あっさりと、さっさと済ませたような感じで、この曲への思い入れは感じられなかった。単に時間配分や軽重を考えて組み合わせたプログラムなのかなあ。

昨年は、この頃に翌年度のラインアップが発表されたように思う。今年はまだである。日程だけは情報があるようだが、肝心の指揮者や演目は判らない。監督辞任後のシーズンなのに今の時期に何もないというのは解せない。当面は音楽監督不在ということになるのだろうか。少し心配なことである。

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