佐渡オペラ「魔弾の射手」 〜 奇しくも皆既月食の日
2018/7/28

このオペラのモチーフの魔弾が鋳造されるのは、私は知らなかったが皆既月食の夜らしい、なんとも奇縁、まさにこの日の未明がそれなのだ。歴史上の人物が出てくるわけでもないので、このオペラの時代背景を意識したこともないが、今回の演出ではドイツ30年戦争の時代であることが強調されている。もっとも、字幕やプログラムにそんなことが書かれているだけで、舞台からそのことを窺うことができるかとなると、やや疑問だ。ドイツの農民の30%以上が抹殺された悲惨な時代ということで、ポルポト政権下での犠牲者が20%と言われていることと比べても、とんでもない数字なんだけど、その陰惨さがオペラの舞台に漂うかどうかというと。強いて言えば、「狼谷の場」で悪魔ザミエルが羽を拡げたような格好で空中にせり上がって行くシーンは、映画「羊たちの沈黙」の不気味な死体のシーンを連想するぐらいか。

オットカー侯爵:小森輝彦
 クーノー:ベルント・ホフマン
 アガーテ:ジェシカ・ミューアヘッド
 エンヒェン:小林沙羅
 カスパー:髙田智宏
 マックス:トルステン・ケール
 隠者:妻屋秀和
 キリアン:清水徹太郎
 ザミエル:ペーター・ゲスナー
 ひょうごプロデュースオペラ合唱団
 合唱指揮:矢澤定明
 管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
 指揮:佐渡裕
 演出:ミヒャエル・テンメ
 装置・衣裳:フリードリヒ・デパルム
 照明・映像:ミヒャエル・グルントナー

東京ではコンヴィチュニー演出の「魔弾の射手」が同時期に上演されている。観に行かなかったが昨秋には関西二期会の公演もあった。さしてポピュラーな演目でもないのに、重なるときは重なるものだ。私にとっては、どこがいいんだろうというオペラで、登場人物に深みがないし、アガーテに至っては有名なアリアをあてがわれていても、何らドラマに寄与しない人形のような感じでしかない。悪役のカスパーや生気に溢れたエンヒェンのほうがずっと存在感がある。最後はお決まりのデウス・エクス・マキナで、そりゃないよというところ。それで名作と言えるのか。「タンホイザー」は、これのパロディではないだろうか。もちろん、ワーグナーの台本や音楽のほうが説得力があるのは疑いない。ただ、「魔弾の射手」があったから「タンホイザー」が生まれたとも。

私のこのオペラへの認識そのままに、カスパーの髙田智宏さん、エンヒェンの小林沙羅さんがいい。高田さんはここ西宮で聴いたジョルジュ・ジェルモンの素晴らしさが印象に残っている。ドイツの歌劇場で活躍しているらしいので、この作品もお手の物なんだろう。もっとも、ドイツの地方劇場の座付きなら何でも歌うから、キャリアの形成には適しているのかも。アガーテの静に対してエンヒェンの小林さんは動、この人はこういう役柄によく合っている。

主人公マックスのトルステン・ケール、恋人役アガーテのジェシカ・ミューアヘッド、悪くないとは思うのだけど、どうもいまいちインパクトがない。まあ、そんなことを言うのは贅沢なんだろう。そもそも、あまり思い入れのないオペラだから、どうしても聴き方がそんなふうになってしまう。主役たちに目覚ましい歌唱があればまた違うんだろうけど。珍しくCDで予習していたカミサンはどう思ったかな。

佐渡オペラも回を重ねてすっかり夏の風物詩として定着した。メンバーは常に入れ替わるから、進化しないオーケストラというのは仕方がない。引き締まった演奏ではあるが、音楽の端々にキレがないという印象。連日の公演も千穐楽に近く、毎日が新鮮という訳にもいかないのも分かる。来年の演目がプログラムで発表されていた。レナード・バーンスタインの「オン・ザ・タウン」。ブロードウェイ・ミュージカル、私は聴いたことがない。以前、ここで取り上げたバーンスタインの「キャンディード」が佐渡オペラの最大の成果だったから、ちょっと期待が持てる。

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