新国立劇場「アイーダ」 〜 またしても途中まで
2018/4/22

前にこのプロダクションを観たのは2008年の3月なので10年ぶりになる。新国立劇場開場が20年前の1998年、この「アイーダ」はそのとき登場したもので、私は2003年の再演で初めて観た。これが3度目になる。フランコ・ゼッフィレッリの豪華絢爛なオーソドックス演出、装置も大がかりなら舞台上は兵士やら群衆に扮したエキストラで溢れる。舞台の上を馬まで走る。巨費を投じたプロダクションだから、お蔵入りは勿体ないということだろうが、でも再演とはいえお金はかかる。ゼッフィレッリは既に冥界の人だから、引き継いだ粟國淳さんが仕切っているわけで、もともとの演出家がいないなかではやはり綻びも見える。

どこがおかしいかと言うと、やはり群衆シーンか。大勢の登場人数の衣装がそれぞれ細部が違っているのは大変な凝りようだが、身にまとえば済む衣装と舞台上の所作は別物だ。それぞれの人物の振付がどこまで徹底されているのか、烏合の衆的なモヤモヤ感が顔を覗かせる部分も多い。一番滑稽なのは凱旋の行進で戦利品を担いだ兵士たちが進むところ、大きな石像や宝物箱がユサユサと揺れている。決まった時間の音楽に合わせて移動するので、どうしても早足気味になるから、ちっとも重量物を担いでいるように見えない。せっかくの大道具小道具が台無しで失笑を誘う。これは何とか対策を講ずべき箇所ではなかろうか。

アイーダ:イム・セギョン
 ラダメス:ナジミディン・マヴリャーノフ
 アムネリス:エカテリーナ・セメンチュク
 アモナズロ:上江隼人
 ランフィス:妻屋秀和
 エジプト国王:久保田真澄
 伝令:村上敏明
 巫女:小林由佳
 合唱:新国立劇場合唱団
 合唱指揮:三澤洋史
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
 指揮:パオロ・カリニャーニ
 演出・美術・衣裳:フランコ・ ゼッフィレッリ
 再演演出:粟國淳

オーケストラはいつもの東京フィル、思いのほか快調である。目立たないはずの部分でも金管楽器を強調するきらいはあるが、トータルとしては出来のいいほうの演奏だ。音楽が緩むところもない。4階バルコニー席からは指揮者カリニャーニの姿は見えないが熱演である。コーラスは定評のある新国立劇場合唱団なので、第2幕のスペクタクルも盛り上がる。それに比べると、主役の歌手たちの出来はどうなんだろうか。ナショナルシアターとしての一定の水準は確保しつつも、それぞれに注文が付きそうな歌である。

先ずタイトルロール、アイーダを歌うイム・セギョンの強靭な声に驚く。ひとり彼女の声だけが大合唱を突き抜けて客席に届く。韓国の人のようで、彼の国には才能のある人がいる。ただ音楽性ということではどうか。第3幕のアリアが典型だが、声の威力の半面でフレージングの滑らかさやピアニシモの優美さに欠ける。端的に言えば心を打つ歌ではないのだ。声の出る人ほど繊細さから遠ざかる。確かに両者併せ持つ人など最近では稀であるので難しいところだ。

アムネリスの聴かせどころの第4幕を聴いていないので、セメンチュクについてはきちんと論評できないところもある。聞こえてくる評判は悪くなかったのに、実際のところ私はあまり感心しなかった。低音域が濁りがちで不明瞭なのは居心地が悪い。幕切れに満を持してパワーを温存していたのかも知れないが。

ラダメスのマヴリャーノフ、この人も旧ソ連、ウズベキスタンの出身とか。いろいろなところからオペラ歌手が出てくる。立派な声であるものの私の好きな声ではない。声に色気がないのだ。結局のところオペラは声、その良し悪し、魅力の有無がスタートになってしまう。天賦のものだからいかんともしがたいのだが、それが現実であるのだから仕方がない。

そういうところではアモナズロの上江隼人さんは対照的、この人の声は魅力的だ。いつも残念に思うのだが、もう少し声量があればと。なかなか二物を備えるということにはならない。しかし、出演者のなかでこの人だけがヴェルディの大きく弧を描くようなメロディラインを捉えている。海外から多数の歌い手を招聘しているのに、一番ヴェルディらしい音楽が聴けるのは日本人歌手というのもヘンなことだ。

最近のヨーロッパのオペラ公演では休憩回数が減っているように思うのだが、新国立劇場の場合は20分から25分に延びたうえに、この「アイーダ」だと各幕の間に休憩が入り、14:00の開演で終演は遅くなる。掲示されたタイムテーブルでは第3幕終了が16:55、これだと17:30からの大学のクラブ同期会に参加する私としては第4幕をパスするしかない。前回も廃止直前の寝台急行「銀河」に間に合うよう終幕の途中で抜け出したことを思い出す。
 ともあれ、初台から駒場まで山手通を一直線だから10分もあれば大丈夫、裏門から入ってキャンパスを横切り、学生時代にそんなものはなかったフレンチレストランへ。15人が集結、2人は物故、全員揃っても19人なので今回は参加率が高い。こちら気楽な年金生活に突入しているというのに、これから重責を担うことになる主将を励ます。今後は神経を使うことばかりだろう彼も、同じ釜のメシを食った仲間との席ではリラックスモードのよう。

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